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『最強のスポーツクラブ経営バイブル』を読んで

はじめに

Bリーグチェアマンで元千葉ジェッツ社長の島田慎二さんの著書『最強のスポーツクラブ経営バイブル』を読んだ。

現在、Bリーグは島田さん、Jリーグは野々村さんと、クラブの経営を経験したことがある人がリーグのトップになっている。私はこの現象を好ましいと思う。なぜならリーグとチームの利益はどうしても相反するからだ。そのことを理解した上でチームの事情が本当にわかっている人がリーグのトップだと、全体最適のバランスが取りやすいと思う。他競技のリーグを見てほしい。クラブ経営者がリーグのトップになっていることは多分ないだろう。まずはここがポイントだ。

それを踏まえた上で、いくつかこの本で心に残ったフレーズを紹介していく。

クラブの成長なくしてリーグの発展なし。リーグの発展なくしてバスケ界の繁栄なし。

私もクラブ経営の経験があるのでこれはすごく良くわかる。完全に同意する。競技団体から来た人には多分ピンとこないのではないだろうか。業界が長期的に発展するためには、日本代表が強ければ良いというものではないのだ(強いに越したことはないが)。リーグを構成する各クラブの経営力が上がってこないとどうしてもリーグは発展しない。これはやはりクラブ経営者だからこそ言える言葉だ。

例えばこれは女子サッカーやラグビーを見ていれば明らかだろう。世界大会で日本代表が良い成績を残してもそのあとどうなったか。「クラブの成長なくしてリーグの発展なし」、その通り。もっというとクラブの経営ができていないからリーグが発展しないのだ。

クラブ運営とは事業と競技、すなわちビジネスオペレーションとチームオペレーションの2軸だ。

これも完全同意だ。最近はこのような考え方が徐々に広まってきていると感じているが、スポーツの場合、一般の人にはどうしてもチームオペレーションの方が重要だと思われがちだ。チームが勝ったとか負けたとか。誰が活躍したとか。マスコミの報道もその点にフォーカスが当たる。けれどもクラブ経営からしたらそれは一部分なのである。私も常々この2軸で考えているが、ここまできちんと言語化されたものを見たのは久しぶりで爽快だった。

私も島田さんと同じくビジネス界からスポーツビジネスに入っているので、まずはビジネスオペレーションに目がいく。ビジネスで稼ぎ、そこで得た利益を選手強化や選手育成やクラブスタッフに投資する。この順番が重要だ。

ただ、最近感じているのはそういう人間でもチームオペレーションをある程度は理解したほうが良いのではないかということだ。さすがに日々の細かいところは監督やコーチに任せたほうが良いと思うが、監督を採用したり罷免したりするのは結局のところ経営者の仕事なので、選手たちや指導者のことももっともっと理解する必要があると思っている(自戒も込めて)。実はこの本にはそこがあまり書かれていなかった。なので「最強のスポーツクラブ経営バイブル」は少し言い過ぎかなと思う。いつかこの2軸において、それぞれの深い考察をまとめた本が出ることを祈りたい。

「視聴者数」という新しい評価軸

私はラグビーワールドカップ2019でチケット販売の責任者をしていた。決勝戦のイングランド対南アフリカは横浜スタジアム(ワールドカップではネーミングライツが認められていないためこの表現となる。いわゆる日産スタジアムのこと)で行われ、70,103人の観客数日本最高記録を叩き出した。その経験からするとアリーナスポーツはせいぜい数千人の観客数だ。正直いうとどうしても物足りなさを感じてしまう。

ただ「視聴者数」という新たな評価軸ができればどうだろうか。たとえアリーナの観客数が5,000人でも全世界で200,000人が視聴するということは十分あり得る。視聴者数を軸に取れば施設のキャパシティは二の次になるわけだ。この考え方には夢があると思う。クラブのそれに対する経営努力がまっとうに評価され収入に直結するような仕組みが求められる。

2026年新Bリーグ

Bリーグチェアマンの島田さんが主導して、2026年から新Bリーグが始まる。一番の特徴は「競技力」ではなく「事業力」でカテゴリーが決まることだ。極端な話チームがどんなに弱くても、売上高が12億円以上あり、平均観客数が4000人以上でVIPルームなどの基準をクリアしたアリーナがあれば、どのクラブでも新B 1リーグに入ることができる。降格もしない。

これはこれまでの日本スポーツ界の中では初めての試みであり大変画期的なことである。プロ野球やJリーグと同じことをしていては勝てない。それが分かった上での新しいアプローチだと思う。リスクもあるがチャレンジをする。さすが経営者、さすが島田さんと言うべきだろう。仕組みを作って成長を促す。極めて戦略的で参考にしたいアプローチだ。

最後に

全体的にはわかりやすくまとまっていてとても面白かった。Bリーグのこと、千葉ジェッツのこと、他チームのこと、事例も豊富で様々な立場の方が読んでも色々と参考になる本だろう。

私も本を書いた経験があるのでわかるのだが、お忙しいはずの島田さんのこと、この本は決して島田さん一人では出来上がらなかったはずだ。頭の中にある濃密な経験をわかりやすい文章にするのはとても難しい。そこは今回「取材・構成」を担当された上野直彦さんの力量によるところが大きいのではないか。上野さんのスポーツビジネスに関する深い洞察がなければこのようにまとめることは困難だったはずだ。このタッグだからこそ、この完成度の本が出来上がったのだと思う。

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