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紫煙のひと

物悲しいジャンゴのギターが流れている。
ステファンのバイオリンがいっそう
愁いを上積みする。

この世に、私が思う私は存在するのだろうか。
あなたは私が思うあなたであるのだろうか。
あるいは、あなたはあなたが思うあなたなのだろうか。

ジャンゴが奏でるリズムに乗って、
溜め息のような紫煙が流れてくる。
ステファンの、胸の奥に入り込んでくるような一音一音が
オン・ザ・ロックスの氷を溶かしていく。

あなたの纏う色は、
誰の目にも同じ色に映っているのだろうか。
あなたと私の頭の中で再現されている色は
同じ色なのだろうか。

ひととき、煙草の煙が愛する人の姿になる。
が、煙を振り払おうとした手は、もはや止めることができない。
その姿は、波動のようにフォルムを変化させ、霧散してしまう。

ネックを見つめながら奏でるジャンゴが
ふと、こちらを見て口ひげをほんの少しばかり持ち上げる。
ステファンがそんなことを気にするなとばかり
奏でる音数を増やしていく。

私たちの存在が宇宙の小さな小さな澱のようなものだとしたら
いずれその澱は、広がりゆく紫煙のように形を成さなくなるだろう。
物語はほどかれ、言葉はちりぢりになる。
そして、音の波も悠久の時間を超えることはできない。

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