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思いは声に乗り、霧消する。

【第13回 「shiseido art egg」展】小林清乃展「Polyphony 1945」
今年度のアートエッグ、二人目の展示。
小林清乃さんは、日本大学藝術学部映画学科を卒業した愛知県生まれの作家。

「個人の視座からみる世界と
俯瞰的または普遍的な観察点からみた世界との内的関係を探求」
しているとある。

1945年3月、東京の女学校を卒業した主に七人の女性たちによって書かれた、一人の同窓生に宛てた手紙が、七つのスピーカーから朗読として流れてくる。
「あのね、わたくし…」
戦時にあって、なお品を失わない彼女たちの美しい日本語。
原子爆弾が語られ、友の死が告げられることばの連鎖の中で、
それぞれの思いは、符合しすれ違う。


「その時代、彼女たちが共有していた意識の大きな流れと
決して互いに共有できない個々の旋律」
車座に並べられた七つのスピーカーの中心で、それらは混濁し消え去っていく。

時折、バッハの「平均律クラヴィア第13番BWV858」が
スピーカーから起ち上がってくる。
それらは会場で一つの音楽となり、彼女たちの手紙という振る舞いを
一層際立たせ、悲しみで包み込む。

遠い夏空の向こうなる悲しみを、その儚さゆえに
美化してはいけないと思う。
現代にもう一度、同世代の俳優たちによって読み上げられた声が
彼女たちの存在を浮かび上がらせることに成功しているとすれば、
そこから受け取ることは何なのか。
静かに考えたい。


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