羊をめぐる考察。
【東京藝術大学 卒業・修了展 2020】
大学院美術研究科 油画技法材料研究室 林菜穂さんの作品
「昨日の今日のあしたの日」(欧文タイトルはOne Day)
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これはポートフォリオの中のステートメントだったかもしれない。
が、彼女の立脚点を表現しているものとして一部転記したい。
「美という漢字は羊を生贄にしている姿の象形文字らしい。(中略)
人間同士がつかううえで最も汎用性の高い共通ツールが 言葉 であるが、
この 言葉 というものもものごとを区切るための「単位」のひとつであるだろう。また 絵画 も「単位」のひとつでありましょう。文字は絵からできていたりしがちだが、言葉 と 絵 とをくるくる回り、絵画 から 言葉 に言及できますか。羊毛(フリース)は上毛(ヘアー)と下毛(ウール)の二層からなるそうですが、ヘアーは硬くウールはふわふわで羊が覆われた表面である羊毛といってもひとくちい表面とは呼べない表面である羊毛に覆われたのが羊です。わたしは絵画という『単位』で言葉に言及し ひつじ みたいな絵を描きたい」
たしかに羊の絵が一点あった。
時の流れのような長い長いルーズソックのようなウールらしき編み物の上に
置かれていた。
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空間全体は植物の存在に満ち溢れていた。
概ねそれらは枯れ朽ちていたが、
自転車のかごに置かれていた炊飯器からは
緑の瑞々しいカイワレのような植物が
必要以上に伸びていた。
そしてカンバスの縁は、朽ち始めたように
剥離しているように感じられた。
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デリリウム・トレメンスから生える
枯れた植物には、どこか成れの果てといった雰囲気が漂い
そこから静かに毒気が床に堆積していくような
妄想が浮かでくる。
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彼女の意図的にずらしたような文章のありようは
空間構成にも用いられているような気がする。
この生気のない植物たちから立ち上がってくるものはなんだろう。
この見た目の下部に、下毛が隠れているのかもしれない。
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