見出し画像

Spirit by STEINBERGER 改造の記録

80年代に一部で流行ったスタインバーガーというギター / ベースがある。箱みたいなボディに棒きれみたいなネックがくっついていてヘッドがない、いわゆる、ヘッドレスギター。

海外だとエディ・ヴァン・ヘイレンやアラン・ホールズワース、日本だと晩年のムッシュかまやつさんが愛用していた。ヴァン・ヘイレン以外は故人、RIP...。 (*2020.10.7.追記:エディも亡くなってしまった...RIP....)

同じギターでもそれぞれのトーンが個性的で最高。

--------

本物のスタインバーガーはカーボンファイバーで出来ていてずっしり重いが、80年代には各社から木製のコピーモデルや類似品がたくさん出回った。上がヤマハ、下がアリア製。

画像1

画像2

80年代半ばに大学生だった僕は、よく楽器を自作したり改造したりしていた。スタインバーガーに憧れてストラトをのこぎりでぶった切ったこともある(すまなかったストラトよ)。そのへんのことはここに詳しい

*ちなみに下の写真がモノクロなのは時代が古いからではなく、その頃アートにかぶれてわざわざモノクロフィルムを買ってたから。モノクロ写真が普通に使われてたのはせいぜい1960年代まで。若い人のため、一応。

画像3

*大学の時のライブ写真

1986 赤いギター

大学卒業後の1988年に僕はソロシンガーとしてデビューした。当初は自分で改造した楽器もちょくちょくライブで使っていたが、過酷なツアーで自作楽器がトラブルを起こすのに疲れて、次第に信頼できる楽器を買ってプロに調整してもらうようになった。

89年に昭和が平成になり、90年代は急速に80年代的文化を(昭和な)ダサい時代とみなすモードに入っていった。旧作CD再発ブームとサンプリング・DJ文化の台頭で(渋谷系に象徴される)60〜70年代のサウンド再構築に、誰もが躍起になった。

楽器も同様。80年代の突然変異種というべきスタインバーガーのような変形ギターは影を潜めて、ヴィンテージな機種やトラディショナルなデザインがリヴァイヴァルした。

--------

ここまでが長い前置き。
そんなこんなで時は21世紀まで流れ2005年。
宮沢和史君のソロツアーのギタリストとして中南米を旅することになった。

上に貼った自伝的エッセイに詳しいが、バンドメンバーから「中米は治安も飛行機に預けた荷物の扱いも悪いところが多いから、なるべく楽器は手持ちで移動した方が良い」という助言を受けた。手持ちで移動するなら楽器は小さい方がいい。

そこでふと、スタインバーガーのことを思い出した。90年代は使う人もごく少数だったスタインバーガーは、2000年代に入ってから徐々に人気を取り戻していた。

楽器屋に行くと、本家のグラスファイバー製のやつと、韓国製の木でできた廉価版「Sprit by STEINBERGER」があった。弾き比べると確かに本家はよく出来た楽器なのだが、歪ませるとアクティブピックアップとファイバーボディ特有のケミカルな味が強く、木製ボディ+パッシブピックアップの廉価版の方が「ロックな音」がしていた。

何本か弾き比べたら廉価版の白い個体の鳴りが良かったので買うことにした。¥45,000くらいだったと思う。白いボディがのっぺりして見えたので、カラフルなドットのシールを貼った。アコギはヤマハのサイレントギターにした。

画像4

ピックアップはサイケデリズムに相談してSuhrに替えた。ヴォリュームノブのpush/pushスイッチでコイルタップできるように改造。

音と使い勝手はこれでかなり良くなったが、一つ問題があった。チューニングのノブがとても硬くて、弦を替える時など指に豆ができそうになるほどなのだ。検索すると「ワッシャーをテフロン製のものに変える」というtipsが出てきて、これが効果てきめんだった。「Spirt by...」を使っている人には強くオススメします。

結局このミニマムな楽器で、中南米ツアーを無事乗り切ることができた。

画像5


翌2006年、高橋幸宏さんの新譜「Blue moon Blue」がリリース、ライブでは僕と高田漣君・ゴンドウトモヒコ君がサポートメンバーとして抜擢された。

久しぶりの幸宏さんとの共演に自分の中の80’s魂が再燃、スタインバーガーにギターシンセのピックアップを付けて実験的なアプローチで臨んだ。後に幸宏さん、僕、漣君、ゴンドウ君の4人に原田知世さんと堀江博久君を加えた6人でpupa(ピューパ)が結成されることになる。

画像6

余談:あの頃は専用のピックアップを取り付けないと作動しなかったギターシンセが、今やコンパクトエフェクターサイズになって普通にケーブル1本繋ぐだけで使える。テクノロジーの進化、恐るべし。動画のギタリストもヘッドレスギター使ってる。

-------

それ以後も次々と改造・改良を重ねるマイ・スタインバーガー。

アームはどんなに調整してもアクションが固くて狂いやすいので固定することに。10円玉を何枚か重ねてテープで巻いてスペーサーを作り、挟み込んでからアームのテンション調整ネジを最大に締める。最後に一枚追加した分だけ目立つ(雑)

画像7

*12/31追記:ツイッターで、この方法はブリッジの変形・破損につながる恐れがあるとのご指摘がありました。僕も通常のフローティング状態で調整してロックをかけて固定する方法に戻しました。
*ところが、久しぶりにフローティング状態に戻すと、固定していた頃に比べて弦の振動がロスしている(鳴りが悪い)感覚。そこで、チューニングロックをかけた状態で10円玉6枚をガムテで巻いたスペーサーを奥に入れ、隙間にミディアムくらいのピックを2枚押し込むことで、ブリッジとボディの接触面を増やしてみたら好印象。これでしばらく使ってみよう。
(*改造は自己責任で)

画像8

いつも普通のギターを弾いているので、たまに持ち替えるとスタインバーガーの弾き心地にはかなり戸惑う。折りたたみ式のフットレストが付いているので座って弾く時には、さほど違和感は感じない。

画像9

問題は立って弾く時。ネック側のストラップピンが24フレットの下くらいに付いていて、普通のギターの感覚でぶら下げると楽器全体が自分から見て左寄りになるので、補正のために楽器を右側に引き寄せるような構えになる。

エディくらいの達人だと大きな問題じゃないのかもしれないけど、下の写真でも違いが見て取れる。

画像10

この問題は、普通のギターのようにストラップピンが13〜15フレットあたりに位置していればかなり改善する。本家の初期のモデルには前方にストラップを付けるためのアダプターが付いていた。先のヤマハの類似品にツノが付いているのは、この対策なんだろう。

画像11

画像12


そこで、禁断の魔改造を敢行。ホームセンターで良さげな金具を調達、本体に直接ネジ止め。イテテテ(罪悪感)....

棚板を支える金具だけあって剛性は十分、楽器を吊ってもびくともしない。取付角度は、金具を付けたままでもギグバッグに入り、かつ演奏のじゃまにならず、見た目も自然に見える場所と角度を慎重に探した。

画像13

ネック側のピンはストラトが13フレット、テレキャスが16フレットくらいの位置にある。金具を付けたことでマイスタインバーガー改は15フレットくらいの位置になって、立った時の違和感はかなり減った。

画像14

画像15

ドットのシールは剥がして、外したエスカッションやシンセピックアップのネジ穴も埋めて、モノトーンにマイナーチェンジ。ピックアップと棚板金具が黒いのは、実は黒い紙を張ってる(内緒)

ボディ下側のエンドピンはボリュームがついてる方(写真向かって右)を使うと、ぶら下げた時に、より普通のギターに近い構えになる気がする(*個人の感想)

画像16

新生スタインバーガーは、先日のDOMMUNEでの「Yellow Magic Children #01発売記念イベントのライブで役に立った。Kemperで音を作り込んでギターらしからぬ音を多用するのがこのギターに合ってる。80年代が新鮮に受け入れられる時代が再びやってきて嬉しい。

画像17


最後にベースとリズム以外はこのギターの音だけで作った曲。
ギターには聞こえない音ばかりだけど。

2020年秋、このギターに似合ったインストができた。チューニングは6弦からEACGBE。


この「サポート」は、いわゆる「投げ銭」です。 高野寛のnoteや音楽を気に入ってくれた方、よろしければ。 沢山のサポート、いつもありがとうございます。