見出し画像

第六回:だんだんふえてくなかまたち

「ドラゴンクエスト(以下DQⅠ)」というゲームをご存知でしょうか。まあ、ほとんどの人にとっては愚問でしょう。家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」に登場した、初のオリジナル・ロールプレイングゲーム。発売は1986年。30年以上経ったいまなお続編が作られ続け、スマートフォンでもリメイク版が遊べるという、日本のゲーム史上に燦然と輝くシリーズです。

ただ、私にとって一番思い出深いのは、2作目の「ドラゴンクエストⅡ悪霊の神々(以下DQⅡ)」でした。DQⅠではたった1人で竜王に挑んだ勇者。ただし、敵との戦いも1対1でした。それがDQⅡからは序盤を除き、多対多になります。パーティシステムが搭載されたのです。序盤はDQⅠと同様、1人で旅を始めるのですが、仲間がだんだん増えていきます。3人目が揃ったときにフィールドのBGMが変わる演出には、意表を突かれ心を強く揺さぶられたのを覚えています。

ただ、そのすぐあとに船を手に入れ自由度が高くなってから、当時の私はどこへ行けばいいのかわからなくなってしまいました。敵は強くてすぐ全滅してしまうし、中断するため「ふっかつのじゅもん」を書き留めるのは面倒だし、しまいには「ふっかつのじゅもんがちがいます」の悪夢を食らって心を折られ、珍しく挫折したゲームという意味で思い出深いです(リメイクで雪辱)。

DQⅡにはパーティシステムが搭載されましたが、キャラクターの育て方には自由度がありません。主人公格であるローレシアの王子は、剣士で前衛職。サマルトリアの王子は、魔法と剣が使える中衛職。ムーンブルクの王女は、強い魔法が使える後衛職。完全に役割は固定化されています。

とはいえ、DQⅠの1対1戦闘に比べたら、システムは飛躍的に複雑化しました。「HPが少なくなってきたら薬草を使う」くらいの単純さでは戦い続けるのが困難になり、敵の出現地域や攻撃パターンや弱点などをちゃんと把握し、戦略的に行動することが求められるようになりました。似たようなシステムではありますが、まったく異なるゲームに生まれ変わったと言ってもいいでしょう。

さて。

「セルフパブリッシング」ではDQⅠと同様、1人でなんでもやる必要があります。現実でのパラメータの割り振り方は本人次第とはいえ、それぞれ得意な分野、不得意な分野があることでしょう。なんでも完璧にできちゃう天才的なプレイヤーは、めったにいません。

アニメや映画・ゲームを作るのに比べたら、文章を書くことやマンガを描くことは、ハードルが低いです。ただ、文章やマンガを「本」にして売るというところまでやるとなると、ハードルが高くなります。ブログや投稿サイトで無料公開するなら書き(描き)っぱなしにしてもいいのですが、表紙を付け、パッケージにし、紹介文を書き、値段を付けて売る「商品」に仕上げるには、やはりそれなりに手間がかかります。

しかし、倉下さんが命名した「セルブズパブリッシング」なら、1人ですべてやる必要はありません。剣が得意な人もいれば、魔法が得意な人もいます。役割を分担すればいいのです。サマルトリアの王子のように剣も魔法も使える人は、あるときは剣士、あるときは魔法使いとして役割を分担すれば、1人でぜんぶやるより時間が短縮できます。

「セルフパブリッシング」と「セルブズパブリッシング」は、DQⅠからDQⅡへの進化と同じように、似たような概念だけどまったく異なるなにかを生み出すことが、きっとできるのではないでしょうか。

倉下さんの原稿に続く

最後までお読みいただきありがとうございました。