許せないってなんなん?
犬を蹴飛ばす女性の動画に非難が集まっている。
コンビニやファミレスのバイトテロにも。
子どもを虐待する親にも。
コメンテーターや文化人の「許せない」
こんな言葉を目にすると違和感を感じる。
“許せない”と簡単に口にできる人は、
本当に大切な人の弱さや痛みに直面したことがない人だろう。
私が子どもの頃には“もらってください”と書かれた段ボールに入って、
生まれたばかりの子犬や子猫が道の脇に置かれ震えていた。
年配の女性から“こういう時は紙袋に入れて川に流せば良いからね。”と
教えられたこともある。
調子に乗って他人に迷惑をかけた経験のある人は、
バイトテロを人ごとに思えない。
体罰が当たり前の時代に子どもをさんざん殴ったことのある大人は、
“虐待が許せない”とは口にしないと思う。
戦争体験者が口を噤んでしまうのも同じ理由だ。
“許せない”という言葉は、
私の生きてきた価値観の中にはあってはならない事。
だからその行為をする者を許してはならないになる。
罪悪感を感じる経験を一度も味わったことがない人は、
正義感から“許せない”と口をついて出るのだろう。
しかしそう言える自分の生育環境が、
いかに恵まれたものかということに思い至らない。
許せないのであれば、代替案を用意出来なければ説得力がない。
“許せない。”だからなんなん?と思ってしまう。
短所ばかりの至らない私を育ててくれた、
アトリエの賢母たちには共通点がいくつもありました。
お子さんに対して感情的に怒鳴らない。
注意力や集中力をつけるために小さな声で話しかけます。
威圧的でなく甘やかすことなく、冷静に丁寧に話しをします。
状況やものの成り立ちを、理性的に説明する時間を惜しみません。
どうすれば山の様にある荷物を効率よく持てるか、
短時間で片付け整理整頓を保てるのかに心を配ります。
どの様に絵の具の管理や上着のたたみ方をすれば困らないか教えます。
一つひとつが出来てもできなくても、
聞いていても聞かなくても同じ調子で話します。
子ども達が忘れ物をしない様にと心を配り、
もし忘れたら、「すみません。」と謝って取りに帰ってくれるのです。
責任を学ばせようとするけれど、
何かあった時には子どものせいにはせず、責任は親にある。
そんな子育てを徹底されている方達でした。
山の様に習い事をさせて道具の管理もせず、
忘れ物をしたと引き返す時には「忙しくて時間がないのに何をやっているの?」と鬼の様に怒る私とは真逆の対応で、
本当にいろいろなことが目から鱗だったのです。
他のお子さん達の成長を、
ご自身のお子さんのことの様に手助けして褒めてくださる。
工作用の廃材が足りないと、手間暇惜しまず綺麗に整えて寄付してくださる。
子どもをからかったりイライラさせたりしない。
過干渉にもならず、そうかといって放任にもしない。
子どもが興味を持ったものの世界が広がるように、
取材旅行に行き資料の写真を持たせ、必要な材料を揃えたり手段を教えたり。
挑戦して上手くいかなかった事を、
わざわざ指摘してプライドを折ったりしません。
仕事を任せて責任を持つ経験をさせる。
投資した時間や金銭の見返りを求めない。
短期的な結果を求めない。
足りないことをなじるのではなく、出来た事を褒める。
明らかに分かるような問題行動であっても、
口に出して意識させたりせずに別の角度から解消していくように仕向ける。
ご自身の言動で夢の叶え方や勉強の仕方、優しさの手本を見せる。
丁寧に身の回りや健康に気を配り、手紙や記録などで愛を伝え続ける。
こうなって欲しいと我が子に期待するのではなく、
あるがままの我が子を大切にして世話や指導をすると、
後は信頼して親の心配が伝わらないように、
成長やなりゆきを静かに見守っていらっしゃいました。
また方針がしょっちゅう変わる、
なんでもやりっぱなしにしては右往左往する私の指導には一切口を出さない。
批判的なこともおっしゃらず、大切なお子さんを長年任せてくださる。
イベントなどの時は、精一杯の応援と協力を惜しみなくしてくださいました。
そんな親御さんたちはご自身が勉強家で、常に何かに挑戦している。
人生を楽しみ仕事に打ち込んでいる。
人の噂話をせず悪口を言わない、距離を縮めすぎないという特徴がありました。
未熟な私は多くの方の優しさに助けられながら成長できたから、
恩送りは”誰も批判することのない世の中を作ること”だと思っています。
許せないってなんなん?
よく知らない人の存在をそう言えるほど、私たちは偉くない。
蹴飛ばされる犬と蹴飛ばす女性
バイトテロをされた店とバイトテロをする非正規雇用の従業員
虐待されている子どもと虐待する親
全てに支援の手が必要なのだ。
「許せない、だから私は〇〇をします。」
と言うのでなければただの非難になる。
過ちを犯す人の生育環境に、
想像力や配慮がないのは残念なことだと思う。