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おにぎりにも異変 不作で海苔最高値

世の中の様々な値段がどのように決まっているのかを解き明かす値段の方程式。きょうのテーマは「おにぎりにも異変 不作で海苔最高値」です。海苔はおにぎりや寿司といった和食に欠かせないですよね。その海苔の産地の取引価格が近年は不作で値上がりしています。急激な原料高を受け、海苔製品大手が相次ぎ焼き海苔や味付け海苔の値上げを打ち出しています。

値段の方程式
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜〜金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。


「海苔年度」は11月から翌年5月

海苔はどのようにして取引されているのでしょう。取引単位の1枚とは
縦21センチ、横19センチのサイズを1枚として取引しています。新物の海苔が出始める毎年11月から翌年5月までを1年度としており、「海苔年度」と呼ばれています。産地の漁協が仕入れた海苔を一括して仲買加工業者に入札形式、もしくは相対で販売する「共販」という形式で取引されています。

この共販価格をみると2023年度(2023年11月~2024年5月)は現時点で1枚21円10銭。2022年度の平均に比べ20%以上高く過去最高値を更新中です。
2012~2021年度は8円58銭~13円40銭の幅で上下していました。2022年度に17円24銭まで上昇し、この2年間で2倍近く上昇しています。

大手各社が10%以上値上げ

産地価格がこれだけ上昇しているので、大手各社は商品の値上げに動いています。6月から海苔の主要メーカーは一斉に値上げをします。
上げ幅は白子のりの名称で知られる白子が12%〜18%、大森屋は12%〜26%、はごろもフーズは13.5%〜20%です。

海水温上昇と赤潮で不作に

海苔不作には主に2つの原因があります。1つは「海の温度上昇」です。
海藻は魚と違って泳げないため、海の環境変化の影響を直接受けてしまいます。海苔の芽は冷たい海域で伸びるのですが、2023年度は冬になっても水温が下がりきらず、漁場に養殖網を張り込む時期が数週間後ろにずれました。

2つ目の原因は「赤潮」です。国産海苔の約4割が生産されている有明海では「赤潮」の発生頻度が増えています。赤潮で植物プランクトンが大量発生すると、海苔の成長に必要な海中の窒素やリンなどの栄養を吸収してしまい、海苔の栄養を奪ってしまいます。

日本国内の年間消費量は約80億枚。一方、国内産地で生産されているのは2023年度で約49億枚とみられています。以前は81億枚を超えていましたが、直近は減り続けていて2年連続で50億枚に届かない公算が大きいです。養殖技術が確立した1980年代以降で最も状況が悪く、「不作を超えた凶作」との声も上がります。

6月から値上げする白子を取材してきました。原料の海苔が2年連続で高騰したことで、商品価格を値上げに踏み切りました。原田勝裕社長は「なかなか厳しい仕入れ状況になっていると思います。昨年も値段が上がったため、30%値上げをした。今年も(仕入れの)値段が上がり、15%値上げすると公表している」と話します。売値は上がっても単純に喜べないようで、去年の値上げで販売数量にも影響が出ました。売値は30%上がりましたが、販売数量は10%減ったそうです。
2年間で2倍になった海苔の価格。仕入れを担当する島律夫執行役員業務用事業部長は「約20年間、仕入れを担当してきたが、これほど急激な値上がりは初めてだ」と言います。「海苔を早く集めないといけない、というのが先決になっている。相場を上げる原因の1つだと思う」(島部長)。調達・仕入でも工夫しており、「有明海が非常に減産しているということで、全国くまなく、白子の製品に合ったものを他の産地から仕入れることも考えて取り組んでいる」と話していました。

産地の自治体も対策に乗り出す

赤潮による不作が深刻な中、佐賀県では海苔の漁を支援するために、海の状態を予測するシステムの開発をすすめています。2024年度から有明海で測定した海水温や塩分、植物プランクトンの量をホームページで「現在」「3日後」などリアルタイムと予測の両面で情報提供できる新たな海況予測システムの開発に着手します。24年度予算に関連事業費として約4000万円を計上したことからも、県を挙げての本気度がうかがえますね。
身近なところでは、国産海苔の約3分の1を消費しているコンビニで影響が出ています。海苔のほか各種食材や包装資材の値上がりもあり、セブンイレブンは大半の手巻きおにぎりを10円程度値上げしました。コンビニのおにぎりといえば、「パリパリ」とした食感が特徴の海苔が別包装されている「手巻き」タイプのおにぎりが人気を集めていました。現在、「手巻き」タイプのおにぎりは2割~3割ほどにとどまっています。
価格を上げざるを得ない状況ですが、物価高が続いている状況で、すでに値上げしている商品も多く、高級路線のおにぎりだとしても「これ以上の値上げは避けたい」というのがコンビニ側の本音だと思います。
日本の食卓の定番だった海苔ですが、値上げによる「海苔離れ」も心配です。「白子」の原田社長は対策として、海苔を使ったレシピを広める活動やお菓子の開発など、様々な取り組みを行っていくと話します。

ここで、きょうの方程式です。
「海苔の不作による値上げ=海の温度の上昇+赤潮の頻度増加」

海苔不作にはいくつもの要因が指摘されていますが、不作や値上げの原因は確実に言えることは早期の解決は難しそうです。海の温度もそうですが、赤潮の頻発化については、確固たる原因が特定されていません。韓国や中国産の海苔も国内の相場とさほど変わらないため、輸入すれば安く済むというわけでもありません。
今回、取材をして、私が強く感じたことは「海苔は工業製品ではない」ということです。消費者が目にする海苔は缶やパッケージに入ったものがほとんどです。イメージしにくいかもしれませんが、
野菜や果物といった「農作物」や、卵や肉「畜産物」と同じように不作になることもあります。「暖冬で生育が早まり、葉物野菜が前年比2倍に」というニュースをみることもあります。海で育つ海苔も、天候や環境の変化によって、価格変動は大きくなっています。

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