野球グラブ 牛革不足で値上がり
世の中の様々な値段がどうやって決まっているのかを解き明かす「値段の方程式」。きょうのテーマは「野球グラブ 牛革不足で高値」です。去年、日本が14年ぶり3大会ぶりに優勝したWBCや38年ぶりに日本一となった阪神優勝などで盛り上がった野球業界と関連ビジネス。ロサンゼルス・ドジャースの大谷選手が小学校にグラブ(グローブ)を寄付したことも話題になりましたね。大谷選手は全国の小学校約2万校に各3個ずつ計約6万個を配布しました。1個あたり1万円の計算でも6億円規模となります。そのグラブの値段が上がっています。
総務省がまとめた小売物価統計調査によると軟式野球用のグラブ1個当たりの全国平均額は昨年11月時点で約1万4000円。統計を取り始めた2015年と比べ4割上昇しました。
一部の安い製品を除くと、ほとんどがアメリカ産の牛革を使っています。アメリカ産は脂肪分が少なく、皮も厚く加工がしやすい特徴があります。そのアメリカ産の牛革の値段が上がっているため、グラブが値上がりしているそうです。店舗で取材してきました。
千葉県鎌ヶ谷市の野球専門ショップ「超野球専門店CV」。店内には1200個以上のグラブが並んでいて、客は気になったグラブを試しながら買うことができます。中村勇太社長は「硬式グラブだとここ2~3年でメーカーにもよるが3000円から5000円くらい上がっている」と話します。野球用具国内トップシェアのミズノの最上級グラブは7万円を超えていました。価格の上昇には3つの理由があるそうです。①原材料費(牛革)の高騰②輸送費や人件費の高騰③加工する際の薬品の高騰ーーです。靴やかばんに使う牛革は牛を食肉に加工する際に副産物として発生する皮が原材料になります。こちらはアメリカの農務省がまとめたアメリカ産牛の飼育頭数です。2019年以降減り続けています。
飼育数が減る一方、牛肉の消費量は世界的に拡大しています。なるべく牛を太らせて出荷することで、牛肉の需要の伸びを補おうとしています。ただ急激に太らせると皮の品質に影響があります。肉の成長に皮の成長が追いつかなくなって、皮が薄くなり表面にシワや血管が浮き出てしまう。あくまでも食肉の生産が優先なので、皮の品質は二の次、三の次です。牛革製品に必要な牛革は大きく分厚いものでなければ加工時にやぶれやすくなってしまうので、品質のいい皮の希少価値が上がっている。
アメリカ農務省は今年の牛肉生産がさらに減少する見通しを発表しています。そうなると質のいい牛革の量も減ってしまうためグローブの値段も上がっていく可能性が高いです。
皮革の加工コストも上昇しています。牛皮をグローブに加工する際に使われる薬品は主に欧州のものが使われています。欧州経済が不安定化し製造費が上昇したことでグラブの値段が上がっているそうです。
ここで今日の値段の方程式です。
グラブ価格の上昇=良質な牛革減少+加工用薬品の値上がり
今後もグラブの価格は上がっていくのでしょうか。答えは「イエス」。グラブ以外の革製品の会社からは「今年は牛革の仕入れ価格が2倍になる」との声も聞きました。グラブに限らず、靴やカバン、革の衣料品などがさらに値上がりしそうです。
グラブ固有の事情で言うと、ここ数年で高級品メーカーが増えています。プロが使っている高品質なものを作るメーカーも出てきて、完全オーダーメイドで価格は13万円を超えるものもあるといいます。
あまりにも価格が上がってしまうと、野球離れにも繋がってしまうかもしれないです。矢野経済研究所がまとめたスポーツ用品市場調査によると野球・ソフトボ-ルの国内出荷金額ベースでみた市場規模は2021年に590億円。
コロナ禍で下がったものの徐々に回復しています。グラブ以外にもバットなども上がっているため、最近の野球人気に冷水を浴びせかねません。対策としてスポーツ店ではいろいろな取り組みをしています。奈良県にあるジュンケイーグラブというグラブの製造企業はプロも使っているグラブのサブスクをやっています。
2万6500円で1年間レンタル可能で自分の手になじめば、レンタル後そのまま購入も検討できます。成長に伴って身長や体重などが変わる中高生にとっては価格以外のメリットも非常に大きそうです。
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