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「雷切」「竹俣兼光」「人間無骨」…… 戦場で幾多の伝説を生んだ、武将たちの 愛刀・愛槍


人気ゲームとうけんらんなどの影響もあり、近年は女性を中心に刀剣類に関心を持つ人が増えています。各地の博物館で展示してある刀剣の前に多くの人が集まり、見入っている光景は珍しくなくなりましたし、雑誌やムックで刀剣が繰り返し特集されるのは、それだけよく売れるからなのでしょう。

刀は、もちろん美術品として鑑賞する味わい方もありますし、ゲームのように刀を擬人化して楽しむ世界もあるでしょう。入口はどうあれ、刀を通じて歴史や日本文化に親しむのは、意味のあることだと私は思っています。今回はその中でも特に、戦国武将たちの愛刀や愛槍と戦いにまつわる伝説をテーマに、数々のエピソードをまとめた記事を紹介します。

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雷神を斬った刀

人ならぬものを斬ったという伝承を持つ刀があります。有名なのが、しゅてんどうを斬ったとされるどうぎりやすつな天下五剣にも数えられる名刀中の名刀で、平安時代の伯耆ほうき(現、鳥取県)の刀工・安綱の作です。平安時代の武将・みなもとのらいこうは大江山で、この安綱を振るって酒呑童子の首を落としたのだとか。他にも渡辺わたなべのつなみつなかが、この刀を用いてぎゅうがくし山の鬼を斬ったという話も伝わりました。

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酒呑童子を討つ源頼光と四天王

一方、戦国時代には、雷神を斬ったとされる刀が登場します。ぶん(現、大分県)のおおともそうりんの家臣で、名将として知られるたちばなどうせつは、落雷とともに現れたぎょうの者を愛刀どりで斬りました。また、えち(現、新潟県)のうえすぎけんしんが川中島の合戦で用いたというたけまたかねみつにも、雷を斬ったという伝承があります。それぞれのエピソードの詳細は記事をお読み頂ければと思いますが、刀にはそうした人外の者を斬るだけの、神秘的な力が秘められていると信じられていたのでしょう。

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落雷


凄まじく斬れるという異名を持った槍

あまりにもよく斬れることから、それがみょうとなった刀もあります。たとえば「へし切りのぶながが所持した南北朝時代の長谷部くにしげで、信長が悪事を働いた茶坊主を成敗しようとした際、茶坊主が斬られまいと棚の下に逃げ込んだため、棚ごとし切った」ことからそう呼ばれました。また「にっかりあおは、びっちゅう(現、岡山県西部)青江派の刀ですが、ある武士が夜道でにっかり笑う女の幽霊を斬り捨てたところ、翌朝確認したら石塔が真っ二つになっていたことが、その名の由来となっています。

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蜻蛉切

刀だけでなく、槍にもそうした異名を持つものがあります。とくがわいえやすの家臣で、「家康に過ぎたるものが二つあり からかしらに ほんへいはちうたわれた本多平八郎ただかつ。彼の愛用の槍が蜻蛉とんぼきりでした。とまった蜻蛉が真っ二つになったといわれたことで有名ですが、これを打った刀工は少々意外です。また、「人間こつという不気味な文字を彫り込んだ槍を用いていたのが、もり武蔵むさしのかみながよし。信長の家臣で、あの森らんまるの兄でした。「人間に骨などない」と言わせるほどの凄まじい切れ味の槍を打ったのは、誰なのか。ぜひ和樂webの記事「雷神まで切った! 戦国武将と名刀の伝説を一挙に紹介してみたら真剣にすごかった!」をお読みください。


命を預け、魂を託す

記事はいかがでしたでしょうか。以前、刀剣店でながてつおきさとを手に持たせて頂いたことがあります。せいがんに構えると、私には少し短く感じましたが、ずしりと重く、木刀を振るのとはわけが違うと感じました。この重さが斬り下ろした際の切れ味に大きく影響するのだろうと情景を想像し、肌が粟立つ思いがしたものです。

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長曾禰虎徹入道興里

戦国に限らず、武士たちにとって刀は実用品であるとともに、いざという時に命を託すものでした。だからこそ、肝心な時に不覚を取らぬよう、少しでもよいものを所持しようとしたのでしょうし、刀が本来の力を発揮するよう、手入れも怠らなかったのでしょう。槍は刀よりもさらに消耗品のイメージがありますが、「蜻蛉切」やノサダの槍は容易に手に入るものではなく、普通の刀以上に大切にされたことと想像します。

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記事内にも書きましたが、斬るという目的に特化され、さらに持ち主が命を預けるもの、魂を託すものだからこそ、刀は神聖なものとして古来扱われてきたのでしょう。私たちが刀に、犯すべからざる清冽な美しさを感じるのは、日本人として受け継いできたDNAに由来するのかもしれません。そして、そんな刀を実際に帯び、時に実戦で用いた人々は、どんな思いを託していたのか。そうしたことを想像してみるのも、刀の鑑賞法の一つではないかと思うのです。

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Saburo(辻 明人)
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