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静岡のお茶屋が作った、10秒でできる水出し緑茶

水でお茶を出すには、2時間も3時間もかかるからすぐに飲めない・・・そんな常識を覆したのが、創業80年を目前にしている静岡のお茶屋・髙森商店。水出し緑茶なのに、たった10秒で淹れたての味が楽しめる。


10秒で淹れたてが味わえる水出し緑茶とは?


「お茶は淹れたてが香り高いし一番美味しい。でも水出し緑茶は何時間もかかるので、淹れたての味が楽しめない。お茶屋として、お家でも会社でも味わえる、淹れたての水出し緑茶が作りたかった。何年もの試行錯誤の結果、生まれたのが自社商品の『水出し緑茶ティーバッグ』。そう話すのは、髙森商店の常務取締役・髙森茂幸氏。
 
一般的に、水出し緑茶は80℃のお湯でお茶の味わいを引き立て、氷で冷やして飲まれる。それに比べ、髙森商店の『水出し緑茶ティーバッグ』は冷水(氷水)または常温の水で、たった10秒ででき、しかも淹れたての味が楽しめるというのだから驚きも喜びも隠せない。
 
しかも、旨み成分であり、リラックス効果のあるテアニンは温かいお茶と同様に含まれ、苦み成分のカテキンとカフェインは少ない。それによって、甘味・旨味が引き立つ美味しいお茶に仕上がっている。
 
 

開発した静岡のお茶屋・髙森商店の技術力


ではなぜ、髙森商店は、これまで時間がかかるとされていたにも関わらず、10秒で淹れたての味が楽しめる水出し緑茶を開発できたのか。
 
「細かいところは企業秘密だが、1つは私たちが長年培ってきた技術力がある。その技術力とは、火入れの技術、つまり焙煎の技術力が高いこと」(髙森氏)。髙森商店では、高い技術を活かして、水出し緑茶にする茶葉を“限界まで”蒸している。
 
年月をかけ茶生産者とともに、茶畑の管理、茶葉の蒸し時間など研究を重ね、短い時間でも香り、味が抽出されるお茶づくりに取り組んできた。
髙森氏曰く、「短時間でもしっかりお茶の味が出る絶妙な時間というものがある」とのこと。これが髙森商店の技術力、深蒸し力だ。

挑戦①水出し緑茶に合う茶畑づくりを、お茶農家と取り組む


『水出し緑茶ティーバッグ』が生まれた背景には、髙森商店の高い技術力が重要なポイントになっていることは間違いない。しかしお茶農家の存在も忘れてはならない。
 
「古くから懇意にしてもらっているお茶農家さんにお願いして、水出しに合うように、お茶の生産方法、菅理方法などを調整してもらっている」(髙森氏)。これらの方法については、これまた企業秘密ということだが、髙森商店にとっても、お茶農家さんにとっても新しい挑戦だった。


「髙森商店さんとはかれこれ60年くらいの付き合いです。生産者の仲間の中でもとても評判が良いいですね。その主な理由は、適正な価格で仕入れてくれること、そして、きちんと販売してくれること。生産者としてはたくさん仕入れてくれるのももちろん嬉しいですが、それだけでなく、きちんと売り切ってくれることも嬉しいんです。それが信頼につながっていきます。
最近は急須でお茶を飲む人が減ってきていますので、以前と同じようにしていたら先がない。でも髙森商店さんは特に深蒸しする技術力が高く、とても美味しいお茶を作るので、静岡県内はもちろん、日本各地で受け入れられて、きっとお茶業界を盛り上げてくれる存在になると信じています。言い過ぎましたかね(笑)」(髙森商店と付き合いの長いお茶の生産者さん)
 

挑戦②安価なお茶を求めるバイヤーたち


髙森商店の技術力によって、水出しなのに約10秒という短い時間で淹れたての味が楽しめる『水出し緑茶ティーバッグ』。次の挑戦は、すでにペットボトルのお茶が売り場を席巻しているなか、決して安価ではない水出し緑茶の価値をバイヤーたちに理解してもらうことだった。
 
以前からお茶の業界内ではペットボトルのお茶と専門店が扱うお茶は別物で、それぞれの需要があると考えていた。しかし髙森氏は必ずしもそうでないことに気付かされる。ペットボトルのお茶の味で満足しているユーザーは、同じペットボトルのお茶市場のなかで比較し、選んでいる。
 
残念ながら市場は水出し緑茶を選択肢にあまり入れていない。しかも、特に日本人はお茶をたくさん飲むので味のクオリティよりコスパを求めがちだ。
髙森商店では水出し緑茶には一番茶しか使用しないが、今の市場に価格を合わせるなら多くのペットボトルのお茶と同様、二番茶に変えるしかないが、変えるつもりはないという。
(図:お茶の飲み方TOP5/複数回答)

マーケティング・リサーチ会社のクロスマーケティングによる調査
対象:全国の20~69歳の男女1,100人(有効回答数)
期間:2023年10月6日(金)~9日(月)    

バイヤーの立場で言えば、たとえ10秒で本格的な水出し緑茶が楽しめるとしても、このような市場環境ではお客様に買ってもらえない、と考えるのも当然だ。限られた売り場のスペースを、リスクを負ってまで入れ替えることはしたくはないだろう。
 
しかし逆風ばかりではない。さまざまなバイヤーと商談するなかで、『水出し緑茶ティーバッグ』の価値を理解し、販売したいと言ってくれるところも増えてきた。さらにはコロナ禍を経て、少しずつ市場環境に変化が起きている。

上の図は、コロナ前と後で18歳~29歳の26%が茶葉から淹れたお茶を飲む機会が増えたことを示している(農林水産省「茶をめぐる情勢」より)。増加の理由としては、在宅時間の増加や、お茶の健康機能性に魅力を感じた等の理由が仮説として挙げられる。 また、ペットボトルのお茶が普通化したことで、茶葉から淹れたお茶を飲む機会の少なかった若い世代が日本茶を飲むことも普通になり、茶葉から淹れたお茶にも興味を持つようになったとも考えられる。 

思い/生産者への正しい還元


下のグラフを見てほしい。

農林水産省の「作物統計」によると、栽培面積、生産量ともに、減少傾向にある。平成18年(2006年)から令和4年(2022年)までの17年間で、栽培面積は25%の減、生産量は17%の減となっている。また、最も価値の高い一番茶の1kgあたりの価格も単年で見ると増減あるものの、2005年と比べて明らかに減少している。さらには茶期による価格差等が大きく、これに品質に応じた価格差が加わるため、農家によって大きな差が生じている。

「お茶農家にとっては、一番茶が収入の中心。私たちが安価を求めるバイヤーによって、『水出し緑茶ティーバッグ』の価格を下げるために二番茶を使用したら、これまで築いてきたお茶農家との信頼関係も揺らいでしまう。決してそんなことはしてはならない」(髙森氏)。 『水出し緑茶ティーバッグ』の評価によっては、今後ほかのお茶屋でも短時間でできる一番茶による水出し緑茶に取り組んでくることは想像できる。しかし髙森氏は脅威もあるがそれ以上に喜びがある、という。それにはいくつかの理由がある。 それは、市場が大きくなることで・“本当のお茶の味”を知ってくれる機会が増える・バイヤーが安いかどうかではなく、美味しいかどうかで取引の判断してくれるようになる・農家への還元がよりできるようになり、収入が増えることで農家の生産意欲が高まる・農家の後継ぎ問題の解消という良い循環になる可能性があるからだ。  

髙森商店の展望

「ペットボトルのお茶は手軽で美味しいと評価されています。そのなかで少しずつだが、若い人の間でも本当のお茶の味を知ってくれる人は増えた。もっともっと多くの人に知ってもらいたい。10秒で淹れたての水出し緑茶が味わえる『水出し緑茶ティーバッグ』のことを知ってもらい髙森の味を確立したい」(髙森茂幸氏)。 市場が大きくなり競合も多いなかで『水出し緑茶ティーバッグ』が選ばれることが最高の喜び、と髙森氏は笑った。     

最後に/常識を疑い、パーセプションチェンジを起こす


髙森商店は、これまでは取引先から依頼されたお茶を作る黒子的な存在で商売をしてきた。しかしこのままでは先細りし、いずれ会社が無くなってしまうかもしれないという危機感から自社製品を作ることに踏み切った、という。この一歩が『水出し緑茶ティーバッグ』を生むことにつながるのだが、目のつけどころが興味深い。
 
お茶は70℃や80℃などといった高い温度のお湯によって抽出されるため、温度の低い水出しの場合は何時間もかかってしまうという常識があったのだが、ここに疑問を感じ、水出しでも温かいお茶と同じようにすぐに飲めるものが作れるはずだと考えた。
そして本格的なお茶は市場が小さくなると考え、安価のお茶を求めるバイヤーにていねいに説明し、徐々に理解者を増やした。そして「短時間でも水出し緑茶は作れる」「美味しくて香りが高いお茶は消費者を動かせる」というパーセプションチェンジにつなげた。
 
私たちそれぞれのビジネスでも、常識にとらわれ、市場の拡大につながっていけない状況はある。
時間はかかるかもしれないが、髙森商店の取り組みを自分ごとに置き換え、ぜひチャレンジしていきたいと思う。

コラム1

髙森商店のいちファンとして
『ラーメン ル・デッサン』(静岡県島田市)の店主・増田 稔明さん※髙森商店の温かいお茶をお客様に提供するラーメン店

 
私は島田市出身ですが、40年近く東京でフレンチレストランを営んでいました。でもどうしても地元でラーメン屋さんをやりたくて島田市に戻ってきました。以前から髙森商店さんを知っていましたが、知り合ったのは戻ってきてからです。というより、髙森茂幸くんと知り合った、というほうが正確かな。情熱があって自社商品への誇りも持っている、そういうところが好きです。いつか、ラーメン専用のお茶を作りたいね、と話をしています。髙森商店の技術と茂幸くんの情熱があれば、きっと実現すると思っています。

コラム2


髙森商店の思い

 多くの販売店、バイヤーが売れるか売れないか、高いか安いかというスタンスで話をするのに対し、JIDLは美味しいかどうか、良いものかどうかという視点で話してくれました。本当に嬉しかった。もともと商品に自信は持っていたけれど、市場に受け入れてもらえるかという不安もありましたが、JIDLなら弊社の『水出し緑茶ティーバッグ』の味だけでなく、価値や考え方も広めてくれるのではないか、と感じました。この縁に心から感謝しています。  

コラム3


JIDLが髙森商店を応援するワケ) 
髙森商店さんとは、静岡県島田市が主催するお茶のPRイベントで出会いました。
ただこのとき、髙森商店さんのブースには水出し緑茶はなかったのですが、とても美味しくもっと話を聞きたいと思い、後日、事務所に来てもらった際に水出し緑茶を紹介され、試飲したのです。
 
職業柄、いろいろなお茶を飲むことがあるのですが、一口飲んだだけで、これまでに出会ったことがないくらい美味しいと感じたし、香りも明らかにほかの水出し緑茶と違いました。
こんなに美味しく、しかも淹れたての味が、たった10秒で飲めるなんて!と驚いたことが忘れられません。今後もできる限り、さまざまな形で応援したいと思っています。


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