ボールペン
シェーファーのボールペンを長年愛用している。
長年愛用したシェーファーのボールペンを、しょーもない仕事のしょーもない場所で失くした時はかなりショックだった。
確か6,000円くらいしたはずだ。似て非なる物をメルカリで買ったが、やっぱり違う。インドネシアで買った、アメリカブランドのあの黒マットな色、ゴールドのアクセント、書き味滑らかなツイスト式の、あのシェーファー。
たかがボールペンに6,000円も!?
と言うかもしれない。パソコン時代に手書きもないだろうと言うなかれ。
インドネシアで営業GMだったあの頃、勝負の見積書にサインするのは覚悟と責任が必要だった。その覚悟・責任を託す為にわざわざ高いボールペンを買ったのだ。
100均で買える安物ボールペンを60本買える値段シェーファーのボールペン。
さすがに何万円もするモンブランのボールペンは買えないし、欲しいとも思わない。
6,000円なら買えるから、シェーファーが何かも知らずに当時は買ったのだ。
100円ボールペンを60本失くしてもショックは受けないだろう。6,000円という高いボールペンを失くしたというショックもあるが、インドネシアでここぞという時の見積書にサインしたボールペン。1円2円を争う競合見積に100均のセコいボールペンじゃいけないと思い、奮発して買ったシェーファー。
それでインドネシア最多(いや世界最多?)断トツの数を誇る二輪車競合も勝ち取った。赤字見積になって、いい歳して涙して社長に悔しさをぶつけた時もあった。
たかがボールペン、されど一緒に闘ったボールペン。それを、しょーもない会社のしょーもない現場で失くしたのが、かなりショックだった。
未練がましく失くした現場に何度も行き、スーツ姿だろうがなんだろうが地面に這いつくばって探した。ベトついた床や汚ならしい側溝の中も探した。
見つからなかった。
同僚のおばちゃんは
「また同じの買えばいいじゃん」
と言う。
そういうことじゃないんだ。あの形、色、艶、想い、擦れ具合、毎日胸ポケットに入れていた相棒、幾多の勝敗を共に分かち合ったあのボールペン。
買って済むもんじゃないんだ。
今はシェーファーの別モデルの金ピカのセンスない、想いもない、成金的なボールペンを使っている。
メルカリで2,000円くらいだったか。本物のシェーファーかフェイクかどうかも、どうでもいい。
あのボールペンに未練はあるが、とりあえずシェーファーであることで妥協している。
やはりいい仕事はできていない気がする。
勝って歓喜することもなければ、負けて涙することもない。
今日も眠れない。
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