可愛げ
バイト先に新しい女が入ってきた。僕がこのバイトを始めて、早2ヶ月が経った。少しずつ人に教える立場になり、新人も卒業である。
この新しい女の子、歳は十八。顔立ちは整っているとまでは言えないが愛嬌があり、本来の1.5倍増しくらいには可愛く見える。正直このタイプの女が嫌いな男はいない。僕が許せないのはそこである。
このバイトを始めて2ヶ月、僕は怒られ続けている。僕は自分で言うのも何だが、物覚えはいい方である。バイトぐらいの業務なら2週間程度でパッパと覚える。NSCに入るためにバイトばかりしていた大学生活だったので、どの業種でも対応出来る。仕事が出来なくて怒られたことはない。
しかし、僕の問題はそこじゃない。自分自身では気づけないのだが、とにかく人に対する態度が悪いらしい。僕は至って普通に振る舞っており、悪態をついているつもりはない。確かに愛想はないかもしれない。だが、自覚がないので改善出来ない。実際バイトはめんどくさいしみんなこんなもんじゃないか?
前に働いていたラーメン屋ではここまで、怒られなかった。回転率が高いので愛想よりも効率重視だったのかもしれない。今の居酒屋に勤める前に、もう一つ居酒屋をやっていた。1日目はみんな話しかけてくれたのに、2日目から無視された。5日目に出勤した際に「もう来なくていいよ」と言われた。流石にクビになったのは初めてだった。
一人暮らしで自立していかなければいけない僕は焦った。幸い今の居酒屋をすぐに見つけることが出来た。正直、業務内容は楽勝だ。この店は土地柄滅多に混まないし、飲食店なんてどこも内容は一緒である。しかし、感じる。ヒシヒシと感じる。店長に嫌われている。
店長にタメ口を使うなと怒られた。めちゃくちゃ言い訳だが、タメ口をきいたつもりはない。提供する商品を「これは何番の卓に持っていけばいいんですか?」と聞く際に、「これは?」と聞いただけである。
今、ため息をついたアナタ、人の話は最後まで聞くべきだ。日本語には言わなくても予想出来ることは省略していいという文法上のルールがある。「こんにちは」は「今日はご機嫌いかがですか」の略である。そうなると「こんにちは」はタメ口であろうか?「これは何番ですか?」の「何番ですか?」は省略出来るので言わなくてもいい。1日何回言うと思ってるんだ。もちろん友達に「これは?」と聞く時と「これは(何番ですか)?」と聞くときは声のトーンだって違う。おずおずと申し訳なさそうに「あの…これは…?」と聞いている。正直そんなの誰だって分かる。
話を戻そう。新しく来た女は別格だ。「店長見て、瓶の栓抜き上手に開けれたよ♪」タメ口なんてものじゃない。今どきこんなタメ口聞いていいのはフワちゃんくらいだ。ハーフタレントだって敬語を使う時代になった。こんなの僕がやったら口を聞いてもらえなくなる。
この女がこれで許される理由は何だ?顔がかわいいからか?それとも顔以外の可愛げか?愛嬌か?店長お前もデレデレじゃないか。俺とは業務に関係ない無駄口を一切叩かないくせに、なぜ、その女のプライベートをそこまで詮索する。このバイト暇なんだよな。正直みんなと仲良く出来るなら、暇な時間くらいみんなと無駄話でもしていたい。理由は分からない。だけど結果だけは分かる。僕がいると場がピリピリする。何が足りないのか分からないけど、僕もみんなと仲良くなりたい。
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