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 その送信分の受信者が誰かは未だ、不明であった。シンジケートの協力者たちへの送信であるが、今時珍しく、電波送信なのでどこの誰に届いているかは分からない。昔の手段は本当に便利だと、ドクター・チャンは感心しているようだった。ドクター・チャンは興奮を隠しきれず大きな笑い声を度々あげていた。ブルーインパクトも狙い通り配置できたことを確認できており、狙いはバッチリだった。


 そこで次のステップに進むことにした。ドクター・チャンは、シンジケートに参加している国に滑り込ませた影のナンバー2を呼び覚ます時が来たことを察していた。

 ドクター・チャンは衛星回線を通じて、まず、北朝鮮の金正恩にコンタクトを取り始めた。そこで、北朝鮮に向かわせたドローンとブルーインパクトについて詳しく指示を与えていた。それは、中国軍が保有する核ミサイルとブルーインパクトを同期させて、アメリカ合衆国のワシントンDCに向かわせるものだった。そして、次に、上海、ミャンマー、ナイジェリア、南アフリカのメンバーのナンバー2にそれぞれ音声メイルにて、覚醒の指示を出した。これから、大アジア帝国の旗揚げが始まるのだと、ドクター・チャンは自分に言い聞かせていた。

 

 ドクター・チャンからの指示を受け取った北朝鮮では、あらかじめ中国国境付近に隠していたブルーインパクトを中国側に搬入し、大陸間巡行ミサイルの弾頭部に装着したのだった。そして、何のためらいもなく、大型巡航ミサイルを発射した。北京はそのことを知る由も無い。この大陸間巡行ミサイルの開発は米国、日本、EU、英国には秘密に進められていた。航空機産業のために海外から仕入れた新素材や電子技術をふんだんに投入して開発されたのだ。従来、巡行ミサイルは潜水艦などから発射され、ある程度の飛行の後、ターゲットを破壊する。しかし、この巡航ミサイルは、GPSなしで、記録された地球地図情報と外部認識システムによりターゲットまで外部と通信なしで巡行し、到達する。結構恐ろしい兵器だった。そのミサイルが発射されたことはまだ誰も捉えることができてない。海からの高さ数十メートルを飛行しているのだった。




放射性食料による被害者は、総勢10万人程度まで膨れたがなんとか収まりを見せていた。特に、人口密度が高く、コンビニなどで食料を調達することが多い、東京、大阪、福岡での被害が大きかった。

工場を閉鎖し、流通を完全に政府のコントロール下に抑えた結果、第一感染者が発生してから、3日で封じ込めることができた。これは、以前起きた淡路でのできごとの教訓が生かされていた。

 大型原子力潜水艦に閣僚機能を移した政府と首相は、戦略指令センターで東京を中心とする日本とその周辺でのブルーインパクトの状況を観察しながら、その対策、特に、東京タワーのブルーインパクトの無力化について注視していた。

 その時、首相阿川泰の携帯にメッセージが届けられた。



「創世記の始まり、光あれ。 我々が世界を制するのだ」



 そして、首相阿川は指示を出した。

「すぐに、東京タワーのブルインパクトを無力化するように」と

その指示を受けて、防衛相長官は、特殊部隊に指示を出した。

「解除に着手。着手。」

その指示を受けて、東京タワーに取り付いた隊員は、配線の切断やシンガポールの大泉から受け取った内部構造を参考に無力化に着手した。





 その頃、シンガポールの倉庫基地では、大泉もサムもこれから何が起きそうなのか、不安だった。ドクター・チャンを取り逃がしたことも残念でならない。偵察衛星で南シナ海、東シナ海などを過去データから追跡している最中だった。データ解析を行いながら、ブルーインパクトの対策を検討し続ける大泉は、あるデータを見つけ出していた。ブルーインパクトの放射性と光の関係から、非常に長い距離まで人体に影響を及ぼせること、そして、連鎖反応及び共鳴反応を起こすことで非常に大規模な爆発と放射線の威力を驚異的に増幅できることだった。となると、今スクリーンに映し出されているブルーインパクトの配置から、連鎖反応が起きた場合、日本の半分が壊滅状態になることは間違いなかった。残されるのは中国、四国、九州、沖縄と北海道となる。主要な機能、政府、産業などはほぼ壊滅状態となり、日本は第二次世界大戦後よりも放射線の影響が広範囲に残ることで復興も困難な状態に追い込まれることは間違いなかった。



 決して、東京のブルーインパクトを起爆させてはいけない。





 原子力潜水艦内の戦略指令センターでは、放射性食料の汚染と対応状況について報告を受け、これ以上の拡大はないことから、ドローンとブルーインパクトの問題に神経を集中することにした。しかし、事態は一向に良い方向には向かわず、皆、イライラしていた。一人を除いて。

 首相阿川は、携帯のメッセージを確認してから、少し、みんなと距離を置いて、冷静を装っていた。しかし、内心、少しハラハラしている。汗が滲みだしていた。護衛官の一人を呼び寄せ、準備するようにと言い渡していた。





 その頃、香港では、ドクター・チャンが潜水艦に乗り込み海底に隠れるかのように、出航していた。幸い、その様子を偵察衛星で捕まえることができたシンガポールのサムと大泉は、CIA本部に位置を連絡し、なんとか破壊することを考えてくれることを望んだ。その連絡を受けて、沖縄基地からF35ステルス戦闘機2機が緊急発進した。背面に水中巡航ミサイルを2機装備している。

 発進したF35はステルス機能を持ち、しかも垂直離着陸が可能で、行動様式が普通よりも奇抜な飛行ができるようになっていた。先行した潜水艦を探知するためにF35からソナーが投下され、追跡を開始した。その様子をシンガポールから補佐するサムと大泉は、やはり、チャンの潜水艦の異常に早い航行速度に呆れていた。間違いなく、核融合エネルギを使っている、しかも通常のプロペラの音ではなかった。モワモワとする、変な音を発して潜行している。一応、位置を確定できたので水中ミサイルの発射を準備しているとき、チャンの潜水艦から、ボッドが放出され、水面に出た途端、ブルーレーザーを照射し、見事にF35の2機を撃墜した。

 あっというまで、何の対策もできなかった。そして、チャンの潜水艦は、モワモワと音を立てながら、深く潜行し、ソナーの範囲外に消えていったのだった。





 そして、日本海に停止していたドローンや新潟、岐阜、富士山のドローンからブルーインパクトの象徴であるブルーの光が放出され始めていた。東京タワーからもカバー覆われていたが、ブルーの光が強くなり、特殊部隊の隊員たちを疲弊させ始めた。


 

 原子力潜水艦内の戦略指令センターでは、首相阿川がスクリーンを見ながら行方を見守っていた。

 


東京タワーでは、ブルーインパクとの無力化を進めていた。そのころ、岐阜上空のドローンからからの放射線の強度とブルーの光の強度が高まったり、弱まったりしながら、だんだんと強くなってきていた。まるで呼吸するように、徐々に強さを増しており、旋回中のF2の搭乗員も軽度の被曝を示す数値を示し始めていた。そこに、戦略指令センターから、ドローンの確保指令が届いたのだった。当初の計画通り、網で捕獲し、墜落させる。そしてパラシュートで回収する作戦だった。この作戦は、岐阜、富士山、新潟の三箇所において同時に実行されるてはずだ。

 

 東京タワーではブルーインパクトの内部を開き、小型チャンバーを露出させていた。チャンバーからは強烈なブルーの光が漏れており、隊員たちは保護メガネを付けながら作業を続けているが、致死量の放射線を浴びることになるまでにあと1時間程度の猶予しかなく、急ぎたかった。チャンバーの周りに装着されたレーザー発振器を調べると36本装着されていた。そのエネルギー限もブルーダイヤモンドから撮っているようだったが、おそらく、装置の上部にある、少し小さいチャンバーからエネルギーを取り出しているようだった。ひょっとすると噂になっている核融合炉かもしれないと隊員はそのことを画像と一緒に戦略指令せンターに報告した。

 戦略指令センターでは、この情報をシンガポールにいるサムと大泉に転送し、解析を依頼した。その結果、間違いなく核融合炉であることが確認できたのだった。ネットワークの調査により得られた図面と構造が一致していた。サイズは図面よりも1/10以上小さかった。しかし、エネルギ源としての能力は並外れていた。レーザの出力が徐々に強くなってきているので、ブルーインパクトのチャンバーの解体は続けられていた。



 岐阜と富士さん及び新潟では、捕獲作戦の準備が進み、秒読みが開始されようとしていた。


 

 一方、東シナ海から消えたドクター・チャンの潜水艦が、沖縄沖に突如浮上してきた。偵察衛星でそれを検知した、米軍の沖縄地区にいるシールズが緊急出動し、ドクター・チャンを捉える作戦を始めた。小型潜航艇で接近し、中に乗り込むか、爆破するかのどちらかの選択肢を想定していた。シールズの小型潜航艇が近づくに連れて、ドクター・チャンの潜水艦の様子も慌ただしくなっていた。ブリッジから衛星アンテナを立てながら、甲板では、トマホークのような巡行ミサイルが準備されていた。

 おそらくブルーインパクトも装着されているに違いなかった。シールズが取り付くが、なかなか中に入る手だてがなかった。まだ気づかれていないかのごとく、潜水艦の甲板では着々とミサイル発射の準備がなされていた。シールズの隊員は船内への侵入を諦め、甲板上んミサイルの破壊を行うことにし、浮上した。甲板上での銃撃戦が続く中、一人の隊員がミサイルのそばまでたどり着き、爆破装置をセットすることができた。爆破まで30秒。すぐに、隊員は海に逃げようとするが、ほとんどが射殺されてしまった。

 7名中2名、生還できそうなだけであった。小型潜航艇で逃げようとするシールズ。それを着かけもしないドクター・チャン側hあ、巡行ミサイルをおもむろに発射した。爆破まであと28秒。通常のトマホークだと、九州の東側あたりまで飛んで、爆破のタイミングだったが、これは違った。マッハを超えて進むミサイルは、日本の本土を超えて、日本海側に到達。北陸沖で爆破されたのだった。



しかし、それが、我々の敗北を決定付けることになる。





終わりの始まり。


新たな創世記が始まったのだ。


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