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教える方が学ぶ

最近、某国立大の看護学科で1回だけ授業を持たせて頂いたのですが、どの学生さんより僕の方が学びが多かった気がするので、軽くまとめてみました。

概要

大人や専門職を相手に講演や研修はかなりの数を数えたのですが、いわゆる「学ぶのがメインの人」に教えるのは8月の某私立大医学科のゼミ以来で、人生で数回目。
しかも、60人近い人に一斉で教えるのは初めてだったので、どうしたものかと考えていました。

今回の個人的なテーマは
(1)基礎知識がほんのりとしかない人に、1コマで発達障害とは何か〜3種の内容までを伝える
(2)知識伝達系ではなく、可能な限りインタラクティブに、体験やディスカッションを伴ったものにして印象に残してもらう
(3)自分が受けてよかったものを、やる側の立場でやってみる
でした。

(1)素人にイチから教える

教員や心理士向けの研修はこれまでたくさんやってきたのですが、基礎知識がゼロとは言わないけどイチからの学生さんに教えるのは全然違う。
実は8月の別大学でやった内容は普段の専門家向け研修を軸に組み立てたものだったのですが、けっこう難しかったらしく、やや不消化で終わったのでした…(そりゃそうだ)
その反省を生かして今回は「基礎から分かりやすく」をコンセプトにしなくては、と心に決めました。

そう思うと、専門家向けの研修はラクなんですよね。
基本的なパーツを並べたスライドを軸に、最近のトピックなどを織り込みながら、基本理念/考え方とそれに紐づいた具体例などを話す。
反応を見ながら簡単なところはどんどん飛ばして、マニアックで面白い話題を深掘る。
こういうことがその場でできるわけです。

ところが学部生相手だと、こうはいかない。
「そもそも発達障害とは」とか「ASDの診断基準」みたいな面白みの少ないテーマを、しかも大半は興味がないであろう人に向かって説明しないといけない。
しかも90分の間に、発達障害の概要から、ASD、ADHD、SLDの三つの内容まで網羅しないといけない。
広さと深さのバランスをどこで取るかが、一番悩んだポイントでした。
最終的には、今回は本質の部分のみを深掘りすることにしました。

(2)知識伝達ではなく、印象を残す

これは僕の学生時代の経験、そして前の大学院と今の大学院の経験からです。
とにかく、知識伝達系の授業は面白くない。
聞いていてぼーっとしてくるし、情報の意味や構造・関係性が分からないと入ってこない。

逆に前の大学院では予習した内容を講義させられ、内容に関して詰められ、理解できているかを強制的に確認されました。
今の大学院では予習した内容についてディスカッションをし、時には正解のない「考え方」を自分が形作っていく。
いろんな先生が「頭と口を動かせ」「自分で喋った方が印象に残る」と仰っていて、自分もその実感がありました。

また、僕の基本的な思想として「正解を与えるのではなく、自分で考えられるようになることを目指す」というものがあります。
なので今回の授業の目的を、正確な知識を身につけてもらうことよりも、「発達障害に関しての自分なりの印象・見方・考え方を持ってもらう」ことに置きました(知識は気になった時にググればいいので)。

学部レベルでは思考のための基本的な材料が不十分かもしれず、そのままやっていいものかどうか悩みました。
が、踏み切りました。

基本的なつくりとしては、
①フラットな状態での自分の認識・印象の確認
②基礎的な知識と具体例の説明
③A4 1枚程度のショートケース(ストーリー)を読んでもらう
④グループディスカッションでアウトプットして、認識・印象の再構成
というふうにしました。

これを1テーマ15-20分くらいでやったので相当バタバタでした。
本当は出た意見の共有をしてさらにお互い深めたかったのですが、そんな時間すらなく・・・
しかし、結果的には学生さんたちが優秀な方が多くて、短い時間と少ない材料で期待以上にディスカッションを深めてくれたと思います。

(3)されたことをやってみる

今回の僕の授業は今の大学院で受けた授業のパーツが下敷きになっています。
代表的なものとしては
・切り替えを素早くして集中力の切れを防ぐ
・発言やアウトプットすることが自分の学びになることを提示する
・正解があるものではなく、自分なりの考えを構築することが重要だと伝える(失敗への不安の担保)
・学生間でのディスカッションを主な場にする(発言のハードルを下げる)
・具体的にイメージしやすいようにケースを使う
・教員自身が授業を楽しみ、コミットしている姿勢を見せる
があります。

できなかったこととしては
・定義に厳密な基礎の基礎情報の提供
・充分な思考の材料の提供と、充分なディスカッション時間の確保
・発言の引き取りと要約・まとめをした返し
でしょうか。
これは次回以降の課題です。

まとめ

かなり忙しい時期に取り組んだ課題でしたが、個人的にはなんとかまとまったのではないかなと感じました。
やはり「今やっていることを、立場を替えてやってみる」のはかなり学びが深く、良いタイミングで良いお仕事を頂けて感謝です。

ともあれ、若い人がいろいろなことに気づいたり、考えたり、創り上げたりするシーンに一緒にいられるのは楽しいですね。
そういう意味では診療の楽しさに通じるものもある。
機会があればまたやりたいものです。

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