日記2 日本一の美容師とは
『おしゃれな髪型ですね~』
勿論皮肉だ。
多様性だの価値観だの、なんだの言われている時代だが、やはり接客業に従事するものにとって、メッシュだのアッシュだの髪色がユーチューバーみたいな同僚を見ると内心、眉は顰めているし、そんな思いも潜めている。
しかし本人にとっては単純な誉め言葉以外でも何でもない。良い。これで良いのだ。
俺は皮肉を言える。相手は誉め言葉を言われる。win-win。
どこの美容室で切ってるんですか?
俺は続ける。
「日本一の美容師のところで切ってもらってるんですよ」
はて。
前職。ライター時分に、目から泥が落ちるほど注意された文言を回想する。
「日本一とか、世界一とか、日本初とか、史上初とか。そういったキーワードは”根拠”――主に数字がなければ使ってはいけないキーワードだと。
『何が世界一なんですか?』
なるべく、詰問ではなく、純粋を装って質問する。
売上なのか。
予約数なのか。
純利益なのか。
散髪した客の数なのか。
美容室の広さなのか。
席数なのか。
1人あたりの散髪速度なのか。
何かしらのコンクールを受賞しているのか。
何なのか。
何をもってして日本一というのか。
お聞かせ願おうじゃないか。
「腕前です」
ふーん。
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