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【vol.3】学校との戦い方

 名古屋大学准教授の内田良先生を迎えてお送りする、「教育」をテーマにした今回の対談。第1回は「ブラックすぎる教育現場の実態」、第2回は「AIによって学校はどう変わるか」今後の授業の在り方や先生の役目の変化など教育の未来予想をしました。

 最終回である第3回では、いじめなどを受けた子どもや親、そして責任を負わされる先生を守るためにどうすればいいのか、また笑下村塾の活動の1つである主権者教育の在り方についてお伺いしました。

●こちらから内田先生との対談動画です
https://www.youtube.com/watch?v=oHpn6tM6HgA&list=PLGIs2lskpIl2dUukAOnlamlw_8PKTDUX-&index=3

いじめ対応などで学校を信用できない時、どうすればいい?

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―いじめなど不当な目にあったけど、学校が信用できない保護者の方などがいたら、どうすればいいですか?

この相談も多いです。
学校もマネジメントの蓄積がないんですよね。「まあまあ」となだめたり、「これは教育の中で起きたことですから、やむを得ないでしょう」と。
ケガを負った子どもや保護者にとってはあり得ない話ですが、学校に行っても「まあまあ」と終わらされるし、校長に相談しても動きが鈍い。

法的にどう考えるか、マネジメントとしてどう考えるか、という空気が本当に弱いなと思います。

―実際に相談に来た時に「弁護士に相談しろ」とか言いますか?

ケースは色々。校長にも全く相手にされない人もいれば、誰にも相談できずにいる人もいます。相談した途端に学校からにらまれたりしたら、子どもの進路に関わりますから。

―それがおかしいですよね。

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相談の内容にもよりますけど、もし同じような問題を抱えている保護者がいたら、3人ぐらいで一緒に行った方がいいと思います。例えば「なんで部活は土日もやるんですか? ガイドライン違反じゃないですか?」と思うなら、同じような人で行ったらいい。

校長も教育委員会もダメなら、弁護士をつけるか、いじめの対応をしてくれる地域のNPOに聞いてみては?と申し上げたりしますね。

―相談した後に敵対するのが怖くて、泣き寝入りする人が多そうですね。

本当に多い。

―やっぱり敵対してしまう人が多いんですか?

それぞれですね。交渉に行ったときに、校長がちゃんと向き合えば前向きにやってくれます。部活などで子どもがケガをしたときに、「先生がいなかったのなら、それが問題だよね」と言ってくれる。でもそれを言うと(先生の機嫌を損ねて)、レギュラーにも関わってくるかもしれない。

「これは(生徒が悪いのではなく)先生の方に問題があります」と校長が明言してくれれば、色んなことがいいように回っていきます。
だから問題が見える化したときに、誰かがフタをすると、ボタンの掛け違いが起きて悲惨になりますよ。何言ってもお互いに信用できない。だからトラブルが起きたときに、まずは保護者も先生も向き合って考えてほしいですね。

いまだ教育現場は治外法権

DSC07483.JPG のコピー

―法律の知識とか考えを、もっと現場に入れた方がいいということですか?

学校って本当に治外法権でね。例えば体罰。明らかにやっちゃいけないけど、いつも出てくるのは「指導の一環でした」とか教育の文脈に乗っかっちゃって、問題そのものがうやむやにされていく。子どものケガや、部活をやりすぎることもそう。

法的な管理の仕方と教育による管理の仕方って、けっこう対立するところが多いんです。巨大組体操もそうです。労働安全衛生だと、2m以上のところで働く時には、囲いがあって落ちないようにするのにね。大人の場合は法律があるのに、子どもだと何mいっても、土台がユラユラ動いても「素晴らしい」ってなるんですよね。

―テレビでも、マットをいっぱい敷いてますし。

むしろ、危険にチャレンジするのが子どもの成長につながる、みたいな感覚になっちゃうんですよね。

―それが会社でセクハラとかパワハラが起きる原因と似てると思うんです。いじめ問題とかは特にそうだと考えるんですが、教育の現場で「世の中にはルールがあって、ルールに違反するとこういう罰を受けるんだ」「未成年だから罰は受けないけど本当はこういう罰を受ける」と指導するのと、「謝罪しているから、いいじゃん」というのは全然違うと思うんです。

まず、法的にやっちゃいけないことを確認しなきゃいけない。「それを指導の一環」だとか「子どもだから間違いもあり得る」とうやむやにすると、被害を受けた子が納得できないまま過ごすことになります。罰の重さは別として、いけないことはいけない、と法的に考えることは必要ですね。

―先生は「やっぱり自分が常に責任を問われるのか」と心配だと思うんですよね。

先生自身を守ることにもつながります。子どもだけに利益があるのではなく、先生だって長時間労働で倒れたら公務災害を申請すべきだし、通らなかったら裁判に持っていきましょう、とか。

部活中に子どもがケガをすると、先生が自腹で医療費を払って、終わらせたりする人もいるんですよ。「それが起こったのは、仕事中ですよね」と確認して初めて気づく。だから「法的に」というと、冷たいとか口うるさいような感覚になっちゃうんだけど、子どもと先生自身を守っていくってことですよね。

本当に治外法権なんですよ、学校って。

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―どうしてそうなってきたんでしょう?

学校って自律性のある組織なんです。当然、政治の動きに左右されない在り方というのはあっていいわけです。

かつては先生の立場が強かったですから。そういう中で、学校特有の文化が発展してきたということですね。

―学校の現場と社会を切り離すというのが、今でも脈々と受け継がれている、ということですか。

やっぱり校長が一番、権限を持っているんですよね。
これがいい風に動けばとてもいいけど、あまりにも自律して独自ルールができてしまったが故に、法律が通らない。「先生や教育って、特殊なものですよね。だからお金払わなくていいんですよ」みたいなロジックが通ってしまう。

―教育って感情論になるから難しいですよね。

そうなのよ。

―法律を見ると、いじめの定義が広すぎると思いました。「いじめだと思ったら、いじめです」みたいな。それに対応しないと先生もダメ、というのはさすがに負担が大きすぎる。

懲戒処分みたいな話になる。

―逆にこれ誰も得してないだろう、と思います。
「ここからがいじめですよ」とか「証明するためには、こういう証拠が必要ですよ」というのが分かるようにしないと。「みんな明るく元気に」とあまり変わらない気がします。

結局、教育は精神論や理想論の世界なんです。「子どもにこういうことを伝えましょう。そうすれば、こんな風に育ちますよ」というキラキラした世界なんですよ。うまく回ればいいですけど、その陰で何人かの子どもたちの苦しみがある。

法律でサポートして過ごしやすくする、ということを、前提にしないといけないですね。

学校では主権者教育ができない?

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―主権者教育をやっていて、「政治的中立性」という言葉を言った途端、「怖いからやりません」という先生が多い。やるとしても「任期は衆議院が4年、参議院が6年です」といった程度。

リアルな感覚がないですよね。

―主体的に考えてもらうことから、逃げている事実に悲しくなりました。

そもそも、先生が自分の言葉で話すこと自体に抵抗がある。本名でツイッターなんて、とてもじゃないけどできない。

―おかしいですよね。

伝えるのが仕事である先生が、堂々と意見を言えないのは何なんでしょうね。


ー主権者教育についてアドバイスをいただきたいです。よく若者が選挙に行かないのは昔からだ、だから問題がないという議論があります。たしかに、就職、結婚、出産とライフステージが上がるにつれて政治への関心が高まるのは日本だけではありません。でも、今の団塊の世代は人数が多いから、若い頃に選挙に行かなくても結構な影響力を持っていました。今の若者は選挙に行かない上に人口も少ないので、これはフェーズが違いすぎると思います。

人口規模の問題もあって、選挙にも行かない若者はなおのこと影響力がない、というのはその通りだと思います。でも僕の専門である社会学は「1人1人の問題が、実はずっと遠くまでつながってるんだよ」ということを考えること。だからやっぱり若者にも考えてほしい。そのためには、広くものを見ること。
今のうちから、若者が投票に行くような思考を持ってもらえたら、世の中もっと良くなるかもしれない。「他の国もそうだ」とか「いずれ投票率が上がるからいい」じゃなくて、もっと良くしようよ、と思いますね。

―「そう考えると、今まで与党と野党は組合系に支えられているところが多かったですが、第3の勢力みたいな、いいのか悪いのか分からないですけど、れいわみたいなところが出てきたのって結構大きい気がするんですよね」


それは思う。組合の政治活動に抵抗がある人もいるわけです。個々人の現実的な感覚でいえば、労働者としての生き方と、政党選びがガチで直結しているかというと、そうでもない。そういった人たちにとっても、今の問題を政治としてどう変えていくかという第3の勢力は必要かなと。

―関心を持ってもらえるように頑張って伝えます。

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●内田先生との対談動画はこちらからご覧ください!
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