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「写真で何かを伝えたいすべての人たちへ」の読書感想文

感想文を久しぶりに書いてみることにした

ある本を読んだ。
写真家で、私が加入しているオンラインサロン「メディア演習 オンライン別科 B's」の主催者である 別所隆弘さん が出された単著「写真で何かを伝えたいすべての人たちへ」である。

当初は、読んだ感想をX(旧Twitter)で投稿しようと思っていたけど、たまには文でも書くかとnoteにしたためることにした。


「一緒に迷いませんか?」とお誘いする一冊


と、別所さんはこの本の出版前に言っていた。
更に、「技術的な話は一切ない」とも。

まず本の構成としては、別所さんがカメラを手にした瞬間から今日に至るまでの経験(どちらかというと成功体験よりも心に痛みを伴う経験が多い気がする)に基づき、悩み、もがき、辿ってきた獣道の末に得た言葉たちが、序章から3章までの4部構成で紡ぎだされたものだ。

技術的な話は一切書かれていない。となると「写真を撮る」ことができる人が読む本のように思えるが、実のところそうではない。
タイトルに「写真で何かを~」と書かれていることで、エントリーが写真家向けの本のように思われるが、「現代を生きるクリエイター」全ての人が読むことができる本だと思えた。一方で、これまでクリエイティブについて触れてこなかった人にとっては、読み進めるのが少々しんどい部分もあるかもしれない。

しかし、これは「共に迷う」がテーマである本。

別所さんの経験に基づく投げかけを、どれだけ自分に置き換えて読むことができるのか。
そう、自分ではどうか?
どう考えるのか?
どう考えてきたのか?
の部分を、とても丁寧にひも解いて書いており、少なくとも私は置いて行かれることもなく、
(あー、ここの道通ったなぁ)と共感した部分もあれば、
(こんな考え方で定義するのか)と得るものも多かった。

現代を生きるクリエイターとして
「私はこう考えてきた。あなたはどうする?」
を実例をもって、そしてちょっと全体的に村上春樹の香りを漂わせながら書かれた本だと言える。
優しさゆえの丁寧すぎるメタファーが少々難しく感じることもあるかもしれないが、時間を掛ければ読み解ける本なのは間違いない。
ネタバレを控えて感想を書くとこんな感じになるかな。

迷う方向性の実例

この本が指し示す光の1つを実例付きで紹介してみよう。
本著にも書かれていた
「人間は全員が違う世界を見ている」
当たり前の話であるが、やはりテキストとして読むとハッとする。
頑張って撮影した写真を世に出し、多くの人の目にさらされると、多くの「いいね」が付いたり、好評なコメントを頂けたりと、満たされる自己肯定感の一方で、その写真を心地よく思わない人も出てくる。これを「ゆがみ」と別所さんは定義した。
最近の言葉を借りると「〇〇警察」みないなSNS上に存在する正義の名のもとに取り締まりを行う個人。あるいは、嫉妬から生まれる「とりあえずバレないだろうから叩いてみよう!」みたいな醜悪なモンスター。
ゆがみアレルギーの患者さんたちだ。
幸いにも私はまだ、関わったことはありませんが。

この写真は私が通っているジープ島での1枚。
東京カメラ部のフォトコンテストにも入賞させてあげることもできた1枚で、思い入れのあるものですが、実はこの写真の海の色はかなり色を変えてる。

京都アニメーション作のアニメ「リズと青い鳥」のキービジュアルを見たときだ。あの瞬間、私の写真に対する色の概念に大きな柱が1本加わった。
違う、話したいことはこれじゃない。

恐らくジープ島に関わらず、海の写真を撮る方からするとこの色は本著で語られた「ゆがみ」に相当するだろう。

別所さんはこの「ゆがみ」に対してどのようなアプローチで定義し、相対し、共存を図ったか。もちろんちゃんとこの本には書かれている。
そして(では、あなたはどうやって悩んだの?)あるいは(こんな時がくるから、ちゃんと悩むんだよ!)のような優しい文書が隠されている。
琵琶湖から大きな声で叫ぶ声が聞こえるようだった。

あくまでこれはこの本における、迷路の一区画である。
全体的に、自分の経験に即して落とし込み、丁寧に咀嚼しながらも寄り添ってもらえている感覚が、読んでいるときにはあった。

迷う方向も千差万別になる

人間は全員が違う世界を見ている ので、それはそう。
なので、この本を読んで向く方向はきっと全員異なるものになる。
私はジープ島に軸足を合わせて写真に向き合っていることで、一般的な写真家と少し異なる考え方だろうなと思っている。
と思っているが、本質的には写真家の数だけ考え方は違うので、私が異なっているというよりも全員が全員違うのである。
好きな写真の明るさ、色、あるいは機材、レンズなど。
もっと言うと身長、体重、性別、人種、何もかもが違うのだから、本を読んだ感想もそれぞれ異なって然り。
本を読んだ結果、迷わなかったとしても、変な方向に迷いだしても(自分を追い込まなければ)著者の別所さんとしては、きっと狙い通りなのだろうと思う。
確かな満足感やすっきり感みたいなものを明確に得られる本では無いが、数年後「この本があったからやってこれました」というクリエイターがきっと現れるだろうなと思える。これはそんな本。

この本には賞味期限があると思う

ぜひ読んてみてほしいが、早めに読むことをお勧めしたい。
この感想文にも何度か書いているが、対象はあくまでこの令和の世を生きる現代のクリエイターたちとなる。SNSの普及する昨今故の内容が多分に盛り込まれている。
10年後にはWeb3.0の時代が本格的に襲来し、現代のSNSがどのような立ち位置になるのか分からない。
特にこれからの時代を生き、未来を切り開くクリエイターさんは、自分の立ち位置を理解し、腰を据えてクリエイティブに取り組むためにも、一度読むことをお勧めしたい。
とはいえ、10年後の未来でこの本の価値が下がることはなく、きっと令和初期に現れた羅針盤のような本と評される気がしている。

むすび

「おわりに」に書かれた文書は、別所さんの根源を成すものだろう。
本の発売前に行われたスペースでは、「表紙の写真にはある思いが込められている。」的なお話しをしていた記憶がある。また誰かへのリプライだったか「ぜひ最後までちゃんと読んで欲しい」と書かれていた。
「おわりに」を読む前、ゴールへとたどり着いた、いや迷路から脱出できた?的な解放感というか、得も言われぬ感覚で読了したと思った横から、突然強烈な一撃が放たれる。読むまで忘れていたのだ。別所さんがスペースで話していたこと、「おわりに」への布石を。
最初はかなり戸惑った。
「最後に何てものを書くんだ・・・」
と驚愕した。

未だにどう処理してよいか分からない感情は、頭の中でぐるぐるしている。
別所さんがこれまでの思いをまるで懺悔のように突然「書くだけ」という事はきっとしない。確実にメタファーが隠されている。

別所さんの写真を撮る理由、折れずに万難に立ち向かうための根源でありながらも、誰かに言いたくても言う事のできない、魂に深く刻まれてしまった傷。

みなさんは、これを一体どう読んだのだろう。

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