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【書評】都市 江戸に生きる

江戸の町方社会を取り上げ、そこで生きた多様な人びとの存在を見ながら、都市における身分社会の有り様と、その矛盾にスポットを当て、「社会=空間構造論」「身分的周縁論」「文節構造論」という三つの「下からの視座」で江戸の全体像の把握を試みた書である。

著者の紹介

吉田伸之「都市 江戸に生きる シリーズ日本近代史④」
岩波書店発行、2015年4月21日初版

本書は、1947年東京に生まれ、東京大学大学院人文科学研究科修士課程を修了し、千葉大学教育学部助教授、東京大学大学院人文社会系研究科教授を経て東京大学名誉教授の吉田伸之氏が、長年の研究をベースに「現代社会をふつうに暮らし、誠実に働く市民の方々を読者として念頭に置いて書いた」著書。

本書の章構成

本書は以下の章立で構成されている。

はじめに 下からの視座、三つの方法
第一章 城下町・江戸
第二章 南伝馬町 江戸町方中心部の社会
第三章 浅草寺 寺院の寺領の社会と空間
第四章 品川 宿村と民衆社会
第五章 舟運と薪 江戸の物流インフラと燃料
おわりに 江戸に生きる

本書の概要

第一章では、城下町という都市の性格を考えながら、その最大規模のものである江戸がどのように形成され、巨大化を遂げたかをたどるとともに、近世後期の江戸の構造を、その身分的な編成のされ方を中心に見てゆく。

第二章では、江戸の中心部の社会として南伝馬町とその周辺を取り上げ、町の社会がどのような構造を持ち、どのような人々が暮らしていたのかを具体的に見る。

第三章では、江戸北東部の巨大寺院を中心する社会である浅草寺寺領社会を取り上げ、浅草寺の寺院社会を軸に、いくつかの小都市社会が複合するかたちで構成され、その全体が近世浅草の地域特性を形づくったことを論説している。

第四章では、江戸南端に接する品川宿とその周辺社会を取り上げ、宿村という共同体を基盤に、多様で個性的な社会集団が織りますように形づくられた社会、宿駅や疑似遊郭を軸とする社会全体を、地主・大店層といった実質的な「社会的権力」である支配層と民衆社会の構造を示している。

最後の五章では、江戸に生きる人々を支えるために、なくてはならない燃料エネルギーである薪に注目し、江戸周辺部から薪がどのように供給されて江戸に流通し、販売されてゆくのかを、流通面を支えるハード面も注意しながらふれる。

まとめ

江戸という都市社会を生きた人々の様相を、町人地を中心にそれぞれが置かれた社会の構造や、その中での身分的位置、集団との関係などに注目しながら論説した書である。

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