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【書評】大坂堂島米市場

江戸時代の日本では、米切手という証券を通じて米を売買する市場があった。市場は大坂の堂島米市場。
米切手とは、諸大名が大坂で年貢米を売り払う際に発行した米の引換券のこと。
本書は、江戸時代の中央市場、堂島米市場を舞台として、市場が生まれ、発展していく過程、そしてそれに対峙した江戸幕府・大名・商人たちの姿を描写した書である。

本書の著者

高槻泰郎著「大坂堂島米市場 江戸幕府 vs 市場経済」講談社現代新書刊
2018年7月20日発行

著者の高槻泰郎氏は、1979年生まれで、慶應義塾大学総合政策学部卒業、
大阪大学大学院経済学研究科前期博士課程修了、東京大学大学院経済学研究科後期博士課程修了を経て、現在、神戸大学経済経営研究所准教授。

本書の章構成

本書は以下の章で構成されている。

はじめに
第一章 中央市場・大坂の誕生
第二章 大坂米市の誕生
第三章 堂島米市場の成立
第四章 米切手の発行
第五章 堂島米市場における取引
第六章 大名の米穀検査
第七章 宝暦11(1761)年の空切手停止令
第八章 米切手問題に挑んだ江戸幕府
第九章 米価低落問題に挑んだ江戸幕府
第十章 江戸時代の通信革命
おわりに

本書のポイント

本書では、江戸時代に先物取引を誕生させた堂島米市場の成立の経緯から取引ルール発展の過程、米の品質を巡る大名間の競争、通信手段の発達などが語られている。
本書に書かれている内容の一部を紹介する。

<起源>
大坂における米市の起源は、豪商、淀屋辰五郎の店先に商人が集まり、自然発生的に米市が開かれたことを起源としている。
始まったのは17世紀半ば頃と言われている。

<初期の取引形態>
大名が国元から廻送した年貢米を蔵屋敷から落札し、その代金の三分の一を支払うと手形が発行される。これに、残りの金額を添えて蔵屋敷に提出すれば、米と引き換えることが出来た。
落札者はこの手形を第三者に転売して利鞘を稼ぎ、1枚の手形が1日に10人の手に渡ることもあったという。

<大名家の運用>
米手形(享保年間に「米切手」に呼称変化)は実際に在庫されている米の量以上に発行されていた。
つまり、将来の収入を引き当てにして諸大名が資金調達をする金融市場としても機能していた。

<先物取引への進化>
17世紀末頃になると、米代金を一部支払うことで発行された米切手が、全額支払った後に発行されるようになるともに、取引の流動性を高めるため、現物の受け渡しを前提としない帳合米商いと呼ばれる先物取引が発案された。

<堂島米市場の組織>
売買の情報を「遣来両替(やりくりりょうがえ)」と呼ばれる支配人のところに集約し、そこで集中的に決済を統括。
立会場は、米切手を売買する正米商い(スポット取引)、先物取引である帳合米商い、小口の帳合米商いの虎市に分かれて取引されていた。

<堂島米市場の取引ルール>
ルールブックは存在せず、取引の規律は、米仲買たちの間で脈々と受け継がれた。
帳合米商いでは、「立物米(たてものまい)」という帳簿上でしか取引出来ない銘柄を作り出して売買し、定められた満期までに買いと売りの注文を相殺した。

立物米は、年に三回の取引期間ごとに一つの銘柄を米仲買の投票によって選んでいた。
立物米に選ばれることが多かった筑前・肥後・中国・広島は四蔵と呼ばれ区別されていた等。

<米の品質を巡る競争>
良質の米だと評判になれば米切手の価格は高くなり、立物米に選ばれれば更なる価格上昇が見込まれてたことから、各藩は検査して品質の良い米を区分していたという。
「二度も三度も詰め直しを命じられ、蔵納めが完了ふるまで数日を要する」など、良い品質の米を出荷するために大変だったようだ。

<空米切手停止令>
17世紀に進んだ新田開発は、18世紀初頭には深刻な米余り状況を現出し、米価は頭打ちとなり、各藩の米に頼った財政は厳し局面を迎えるようになった。
一部の大名は苦しい資金繰りを支えるために安易な米切手発行に走ったが、米切手の過剰発行は信用不安を惹起し、米切手価格が下落したことから、最悪の場合、米の交換を求めた取り付け騒ぎが発生することになった。
江戸幕府は対策として、空米切手停止令を発行したが、その効果について言及している。

<献策の制度化>
江戸幕府は、米切手の安全性を担保するという姿勢を一貫して保ち、市場参加者に発信していた。その上で、江戸幕府・大名・商人という大坂米市場の運営に関わる三者が、それぞれに意見をぶつけ合い、政策に反映されるという過程が進行した。

<情報伝送ビジネス>
江戸後期には、大坂の市況などを情報として整理し、「相場書」と呼ばれる書状にまとめる「状屋」と呼ばれる商人が現れた。
さらに、相場書を伝送する「米飛脚」や「旗振り通信」などの伝送手段を生んだ。

全編を通して、江戸時代の先物取引市場について興味深い内容が記載されている。
詳細については、是非、本書を読んでみて確認することをお薦めする。

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