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【書評】人物叢書 新装版 松平定信

天明の大飢饉の最中に各地で勃発した百姓一揆や打ちこわしは、江戸幕府の威信低下をもたらし、新たなリーダーの登場を必要とした。
徳川吉宗の孫という血脈に加え、奥州白河藩の藩政改革を評価されて異例な形で老中に就任した松平定信は、時の老中首座並びに将軍補佐として、山積する難問に果敢に挑み、幕政改革、対外政策を展開したが、僅か6年で老中を失脚した。
本書は、多才な政治家であり文化人であった松平定信の誕生から「寛政の改革」の断行、隠居・死去までの生涯を追い、実像に迫った書である。


本書の著者

高澤憲治著「人物叢書 新装版 松平定信」吉川弘文館刊
2012年10月10日発行

本書の著者の高澤憲治氏は1951年生まれ。1979年学習院大学大学院人文科学研究科史学専攻修士課程修了。国學院大學文学部非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

本書の章構成

本書の章構成は以下のとおり。

第一 誕生から藩政改革へ
一 松平家への養子決定
二 世子当時の政治と社会
三 襲封の背景
四 藩政改革の着手

第二 幕政改革へ向けて
一 溜詰昇格運動
二 党派の形成
三 老中就任の実現
四 田沼意次に対する追罰と将軍補佐就任

第三 幕政改革の展開
一 経済政策
二 農村対策
三 都市対策と情報・思想統制
四 幕臣対策

第四 幕政改革からの撤退
一 朝廷対策
二 対外政策
三 大奥や将軍との関係
四 幕閣の分裂と解任

第五 幕政改革推進中の藩政
一 御霊屋と寿像の活用
二 本知の復活と溜詰昇格の内約
三 幕政と藩政との連関
四 幕閣からの追放と藩政

第六 藩政専念から幕政関与へ
一 浅川騒動と藩政
二 ロシア船の侵攻と幕府に対する意見書の提出
三 自藩における軍備充実
四 房総沿岸の防備

第七 隠居から死去へ
一 隠居
二 桑名転封
三 趣味と交友
四 死去と死後の評価

本書のポイント

松平定信に対する世間一般のイメージは、「清廉潔白、「仁政」を行った儒教的、または理想的政治家」といったものだった。
こうしたイメージは、直接的には「渋沢栄一氏の著書として刊行した『楽扇公伝』により作り出されたもの」と著者は推測しており、その根底には、定信が「家臣が彼を称賛するために作成した書物」が影響し、「彼自身や自家にとって不都合なことは、ことごとく隠蔽させ」たと著者は考えている。
しかし、第二次世界大戦後の学問の自由が保障の下、歴史学や国文学などの研究者により、隠されていた部分が、徐々に明らかにされてきた。

本書は、そうした研究成果にもとづき、「彼のまとっていた厚いベールを多少なりとも剥がし、実像に迫ろうとした書」である。


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