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【書評】幕末単身赴任 下級武士の食日記 増補版

万延元年(1860年)、紀州和歌山藩の下級武士「酒井伴四郎」28歳は、初めての江戸勤番を命じられた。お役は衣紋役という故実に従って、着付けや装束に関する様々な稽古を小姓などにつけるお役。
江戸勤番として衣紋役のお勤めを果たしつつ、江戸の町の見物や藩邸での叔父達との共同生活など、単身赴任の日々の暮らしがあった。

本書は、酒井伴四郎というひとりの下級武士の生活を通して、幕末の江戸の食生活をのぞくことを目的としたもので、伴四郎の和歌山から江戸までの中山道の旅のグルメから、江戸勤番での蕎麦や鮨、どじょうなどの定番江戸グルメ、長屋の自炊生活まで、幕末の江戸の食文化を紙上再現している。

本書の著者

青木 直己著「幕末単身赴任 下級武士の食日記 増補版」筑摩書房刊
2016年9月7日発行

本書の著者の青木直己氏は、1954年、東京生まれ。立正大学大学院博士後期課程研究指導修了。立正大学文学部助手などを経て、1989年株式会社虎屋に入社、虎屋文庫研究主幹として和菓子に関する調査・研究に従事。2013年同社を退職、現在は東京学芸大学などで講師をするほか、時代劇ドラマなどの考証を行なう。

本書の章構成

本書の章構成は以下のとおり。

第1章 江戸への旅立ち
第2章 藩邸と江戸の日々
第3章 男子厨房に入る―江戸の食材と料理
第4章 叔父様と伴四郎
第5章 江戸の楽しみ
第6章 江戸の季節
第7章 江戸との別れ
終章 伴四郎のその後

本書のポイント

「豚をはじめ肉食は、幕末にはすでに武士や庶民の間で相当広まっていた」ことや万延元年(1860年)の江戸府内の蕎麦屋の軒数が3,763軒あり、蕎麦、鮨、茶屋などの様々な外食産業が存在していたことなど、160年前の江戸の町の食文化は多彩に富んでいた。

本書を読む中で不思議だったのが25石の下級武士がどうやって江戸での生活を遣り繰りしたのかだった。結構、外食や飲酒の記載が出てくる。
年収15両程度の下級武士が和歌山に残した家族(妻と娘)の養いと江戸勤番での遣り繰りをどう成立させていたのだろうという疑問だったが、途中の記載で、伴四郎の「江戸詰手当は三十九両、支出は二十三両弱」とあり、米についても現物支給されていたとのことで合点がいった。
それと、普段は自炊で倹約していたという記載も出てきたことで、単身赴任の下級武士の生活の知恵が窺え、面白かった。

増補版では、二度目の江戸勤番と日光随行の話、本来「大番」という軍事職である伴四郎が第二次長州戦争に出兵した際の出来事や心情、組頭昇進と奥詰就任による祝宴に関する記録などが追加されており、幕末に生きた下級武士の生活と心情が窺え興味深い内容だった。

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