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書評

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これまでに読んだ本を少しずつ紹介していきます。
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記事一覧

【書評】新説 家康と三方原合戦 生涯唯一の大敗を読み解く

三方原合戦は、徳川家康の生涯における「三大危機」の一つに数えられており、この合戦で家康は多くの家臣を失い、遠江・三河の領国の三分の二近くを武田に奪われる大打撃を受けている。 一方で、三方原合戦ほど著名でありながら、合戦の情報がほぼ皆無に近いものも珍しく、合戦場がどこであったのかについても、明確になっているとは言いがたいそうだ。 本書では。若き家康最大の危機である三方原合戦について、新たな視点を提供し、合戦にまつわる多くの疑問について再検証を試みた書である。 本書の著者 平

【書評】徳川家康と武田勝頼

東国戦国史の分野では、「新史料の発見や政治・軍事・外交の各分野で新知見の発表が続いている」そうだ。 本書は、これまで武田氏側から周辺の戦国大名を眺めていた武田氏研究の第一人者である著者が、「徳川家康の側から武田氏を見直した」本書は、「大国武田からの侵攻を受け続けた家康にとって、勝頼とのおよそ十年に及び抗争はどのようなものだったのかを見直すことで、一介の三河国衆から戦国大名に成長した徳川家康の軌跡を明らかにするとともに、家康の飛躍を支えたのが、信玄・勝頼が育てた武田遺臣たちで、

【書評】日本史で学ぶ経済学

「なぜ、経済学を歴史で学ぶのか、それは歴史が考えるヒントの宝庫だから」と著者は言う。 第五代将軍徳川綱吉は、徳川政権の財政難を克服するために人員削減を断行した。 一方で、第八代将軍徳川吉宗は、同じく財政難を克服するために人員を増やした。 綱吉と吉宗の政策で、財政難は克服できたのかどうか、史実は雄弁に物語ってくれる。 本書は、歴史の様々なエピソードを経済学で解釈した書だ。 本書の編著者 横山和輝著「日本史で学ぶ経済学」東洋経済新報社刊 2018年9月21日発行 本書の著者

【書評】カラー版 江戸の家計簿

江戸時代の人々の収入や物価を現代の価格に換算して考える際、使っている貨幣も違えば、その基準も違う。人々の生活も現在の私たちとは大きく異なっているため、簡単に置き換えることは難しい。 また、江戸時代の金融システムは、金・銀・銅という3つの貨幣が変動相場で取引される時代だったこともあり、貨幣価値を一概に言うことはできない。 そこで本書では、貨幣価値を江戸時代中期(18世紀初頭)のものを基準とし、米1石を金1両、銀60匁、銭4000文相当とした上で、2つの価値基準、 ①米の価格に

【書評】徳川家康の最新研究 伝説化された「天下人」の虚像をはぎ取る

徳川家康は、8歳か9歳の時から19歳までの間、今川家の「人質」として駿府に居住したことになっている。 この「人質」という記載は、家康の譜代家臣であった大久保彦左衛門忠教がまとめた「三河物語」に書かれていることに拠っており、江戸時代中期に成立した松平家の軍記資料「松平記」にも継承されたことで通説をなしてきた。 ところが近年になって、当時の史料や社会環境をもとに、今川時代における家康の立場について大幅な見直しが進められており、その最大のものが、今川家における家康の立場は「人質」で

【書評】日本史で学ぶ「貨幣と経済」

人々が貨幣に感じる価値とは何か? 日本の貨幣経済の成り立ちと変遷を調べ出すと様々な疑問にぶつかる。 富本銭や皇朝十二銭の機能、渡来銭の流入の理由や鐚銭、商品貨幣が流通した時代の意味するところ、江戸幕府の貨幣政策など、日本の貨幣政策の変遷に触れると何故そのような事象が展開されたのか謎が深まるばかりだ。 無文銀銭からはじまり、幕末の金流出に至る貨幣の日本史は私たちに何を教えてくれるのか? 本書は、貨幣の歴史を題材として、現代の貨幣、さらには未来の貨幣を考える論理の抽出を試みた書。

【書評】貨幣システムの世界史

現代に生きる我々は「貨幣の価値は一定である」と常識的に考えているが、 「19世紀まで、人類の大多数にとって、一国一通貨原則は自明のことではなかった」。 複数の通貨が併存しているとき、交換価値が多元的であるという事例は、歴史上、多くの地域・時代の存在した。 著者は、「本書の意図は、交換の多様性を根源とする貨幣の多元性はむしろ自然なことであり、それゆえに、20世紀初頭まで人類の過半は複数の貨幣とともに交換をなりたたせてきたのだ、ということを明らかにしようとすることにあった。」と述

【書評】遠山金四郎の時代

江戸の名奉行と言えば八代将軍徳川吉宗の時代の大岡越前守忠相と十二代将軍徳川家慶の時代の遠山金四郎こと遠山左衛門尉景元が挙げられる。 大岡忠相に関しては「大岡政談」という江戸末期に完成したタネ本が存在するが、一方、遠山金四郎にはタネ本が存在しないのに名奉行として伝えられるようになったのはなぜなのか? 遠山金四郎が奉行を勤めた時代の老中は、天保の改革に挑んだ水野忠邦の時代であり、町人の実情を理解した金四郎は、水野忠邦の風俗取締、株仲間廃止、人返しの法などの改革にことごとく反対する

【書評】江戸の組織人 現代企業も官僚機構も、すべて徳川幕府から始まった!

江戸幕府の組織は官僚組織であり、それぞれの役職に任じられる譜代大名、旗本、御家人には、家禄や家格などによって複雑な昇進コースが存在した。 例えば老中だと三万石以上の大名が任じられたが、いきなり老中になれるわけではなく、いくつかの役職を経験することによって昇進するのが幕府組織の特徴であった。 一方で、数年で入れ替わる(キャリア官僚の)奉行よりも現場一筋の勘定吟味役や与力・同心の意見を尊重しなければ職務がスムーズに流れていかない組織でもあり、こうした組織運営上の特質にも、現代の

【書評】戦国大名と分国法

分国法は、戦国大名が定めた「自身の領国だけで通用する」法典のこと。 筆まめで多くの私信を残した一部の大名を除くと、行政的な指令や政治的な認可を与える古文書類から大名達の肉声を聞き取ることは容易ではない。 そんななか、分国法からは、厄介な隣国、勝手な家臣、喧嘩に盗みに所有地争い、会議の席順争いや落とし物の処遇まで、現代の私たちからは想像もつかないような猥雑で奇妙な事柄が触れられていて、「おそらく彼らが独り夜中の書斎で頭をひねったり、ブレーンの家臣たちと討議を重ね、苦心のすえに

【書評】人物叢書 新装版 松平定信

天明の大飢饉の最中に各地で勃発した百姓一揆や打ちこわしは、江戸幕府の威信低下をもたらし、新たなリーダーの登場を必要とした。 徳川吉宗の孫という血脈に加え、奥州白河藩の藩政改革を評価されて異例な形で老中に就任した松平定信は、時の老中首座並びに将軍補佐として、山積する難問に果敢に挑み、幕政改革、対外政策を展開したが、僅か6年で老中を失脚した。 本書は、多才な政治家であり文化人であった松平定信の誕生から「寛政の改革」の断行、隠居・死去までの生涯を追い、実像に迫った書である。 本書

【書評】お江戸の武士の意外な生活事情 衣食住から趣味・仕事まで

戦国時代のような合戦もなく下剋上の争いもなくなった江戸時代。 武士が武士らしく生きることは難しい時代となり、江戸後期には「生活事情の点で武士の町人化」という現象も出てくるに至ったという。 100万都市江戸の人口の半分を占めていた武士には、将軍・大名から下級武士まで様々な階層があり、生活と苦労があった。 本書では、江戸時代の武士の「意外に知られていない逸話を集め」、衣食住、仕事ぶり、趣味と遊びといった側面にそれぞれ焦点をあて、その実態を浮き彫りにしようとした書である。 本書

【書評】江戸の食空間 屋台から日本料理へ

江戸前の魚にころもをつけて揚げ、串にさして提供した屋台の「てんぷら」や、古くからあった「なれずし」が、せっかちな江戸っ子のニーズに合わせるべく「はやずし」を経て誕生した「にぎりずし」は、江戸の庶民が生んだ味だ。 天麩羅、鮨といえば現在は高級和食というイメージが強いものになっているが、江戸時代に生まれた「てんぷら」、「すし」、そして「そば」は屋台から生まれたファストフードだった。 本書は、食材や調理方法、発酵技術の発達により生まれた江戸の味や、意外に質素だった将軍の食卓、初鰹

【書評】シリーズ・中世関東武士の研究 第17巻 下総千葉氏

平忠常に始まる千葉氏は、源頼朝の信頼を集めた常胤以来、中世の世に下総に勢力を保ち続けた武士団だ。 本書は下総千葉氏の研究論文を13本収録されており、南北朝~戦国期を中心に、鎌倉中期の千葉氏の経済構造や妙見信仰なども含めた構成となっている。これまでの千葉氏研究の状況を知ることできる好著である。 本書の編著者 石橋一展編著「シリーズ・中世関東武士の研究 第17巻 下総千葉氏」戎光祥出版株式会社刊 2015年10月20日発行 本書の編著者の石橋一展氏は、1981年、栃木県生ま