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#7 Did you know?


  加藤です。プロ野球キャンプも紅白戦から対外試合に、そして下旬のオープン戦に向かう時期に差し掛かってきた。

 各球団のスカウトたちは昨年秋にドラフトで獲得した選手のフォローアップを済ませて各担当地区にそろそろ戻り始めている。編成担当は新戦力のルーキー、外国人、トレードでの補強選手らのチーム内での様子、評判、故障状況等、現時点での見定めを開始するために、他の球団のキャンプ地巡りで多忙な時を過ごしている。夜は夜で他球団の編成らと食事を摂りながら、各地の料理、酒に舌鼓を打ちながらも、その実、目や耳はしっかりとアンテナを張らなくては仕事にならないのだから中々楽しい事ばかりではない。トレードのきっかけもそんな話から始まる時もあるからだ

 私は、2球団で編成部門の責任者として、職務を遂行してきたが、この時期、休日は無かった。球団ごとに休日は3勤1休もあれば4勤1休もある。だから連日の視察となる訳だ。南から沖縄県(久米島、石垣島の離島は沖縄本島から日帰り視察となるため早朝始発便で行き帰りは最終便となる)、鹿児島県、宮崎県、高知県と北上していくのが通例だ。国内12球団、それにファーム球団を見ていく必要があったからだ。

 視察のポイントとしては、先に述べたが新戦力はもちろんの事、新しい施設や練習の取り組み方、スタッフの配置、チームの雰囲気、各担当コーチが何を繰り返し行なっているのかなどが必須内容だった。このことは戦力分析とは別の観点になるが、勝てるチームと勝てないチームの組織での取り組み方、選手個々での取り組み方を見ることにより如実に違いが見えてくるから面白い。自分たちのチームがどんな取り組み方をしていて、どちらのパターンに近いのか?そんなことをイメージしながらチームをビルドアップしていく楽しみ方は編成の醍醐味かもしれない。

 また各球団のマネージャーが作成する練習メニューやメンバー表などは何を重視しているか、誰がキーマンであるかなど推察するためのネタとなる。背番号の変更などもその選手への球団からの期待感あるいはその逆も読める。私は評論家や解説者ではないから、視察先の編成部門の責任者に挨拶をしたら、とっととスタンドに上がりファンの方々の隙間に座り定点観測をしたものだ。ファンのお気に入りの選手への叱咤激励も身近に感じることができるのはキャンプ地での楽しみでもある。

 ホークス時代に王監督の下、1999年9月リーグ優勝、10月日本一になった。しかし遡って2月のキャンプ地でのマスコミの数ときたら寂しいものがあった。高知市内にあるホークスが練習しているグランドでは福岡のローカル局と鷹番のマスコミは数えるほどであった。たしか20名もいないと記憶している。10名足らずの時もあった。「なんだか寂しいね〜」王監督の呟きも聞こえてきたものだ。

 秋山、小久保、城島、小久保、井口、松中、工藤、若田部(順不同)等々ベテラン、若手とネームバリューのある選手も既にいたが、地元ファンもその時は誰もがその年優勝をするとは思っていなかったようだ。

 その時の他球団の編成や解説者もホークスのキャンプ地に視察、あるいは王監督に挨拶を兼ねて来ていたが、何故か一定の訪問パターンがあった。10時の練習開始後に球場に顔を出して昼前にはいなくなるパターンか、あるいは昼過ぎてから訪れ15時半くらいには球場を後にしていくの2パターンだ。

しばらく考えてすぐにその理由がわかった。安芸市のタイガースと春野市のライオンズ(1998年パリーグ優勝)に向かう道中でホークスに寄っていたのだ。「私はやっぱり勝負事は勝たないと相手にされないんだ」とこの時ばかりはホークス2年目のキャンプで痛感したものだ。

 そんなことがあったが、悔しさはさておき編成をする立場になった時は中途半端な視察はせず、見られるものは全てこの目で確かめたり、話を聞ける相手がいれば質問攻めにしたり、写真を撮り記録することを心掛けたものだ。だから選手が球場に着きバスから降りてくる時の立居振舞い、ファンとの接し方、練習後に道具のメンテナンスをしているのか否か、全体練習を終えた選手が次に自らどんな練習を課すのかをこっそりサブグランドへ見に行くこともした。またドラフト候補でリストに載っていたが獲得に至らなかった選手等も興味を持って練習を見た。他球団であってもその選手がそのシーズンにあるいはこれからどんな活躍をするのか自分の感覚を確かめる意味もあるのだ。だから2月とは元々短い月だが、野球界の2月は瞬間的に過ぎ去る期間でもあるのだ。



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