第1章 医局と私 『中堅放射線治療医が見てきた医局と資格 (仮)』の草案
過去の内容はこちらのマガジンに保管しています。
今日は第1章の続き。
今日は私と医局についての話です。
本文はここから。
私は群馬大学の腫瘍放射線学教室の医局員です。群馬大学で放射線治療を専門とする医師の集団に所属している、ということです。
ここからは、なぜ私が入局を決めたか、そして実際に入局してみてどう感じたかについて簡単に述べていこうと思います。
私は学生のときに、なんとなく放射線治療に興味を持っていました。「目に見えない不思議な力でがんを治す」のは、面白そうだなと考えていたからです。
放射線治療は、いわゆるマイナー科です。日本放射線科専門医会・医会のホームページによると放射線診断専門医は約5,600名余り,放射線治療専門医約1,200名余りです。放射線治療を専門にする医師は、放射線科の全体の中でも17.6%しかいない、マイナー科の中のマイナー科です。
となると、どうしても研修先を限定されます。当時、私は放射線治療をやるならば医局への入局一択だと考えていました。私は群馬県出身なので、群馬大学の腫瘍放射線学教室に入局して放射線治療をやることに決めました。ちなみに、放射線治療の業界では、群馬大学の医局は日本で最大手といっても差し支えはありません。ですから、きっと色々学べるのだろうなと期待していました。
結果として、その期待は裏切られることなく、放射線治療医として必要な経験を積むことができました。放射線治療専門医や学位 (医学博士) も無事取得できましたし、横にも縦にも広がる人脈も得られました。幸いにも論文も書けるようになり、業績も積むことができました。
このように、ここまで考えてきた医局のメリットを十分享受させてもらっています。ありがたいことです。
一方で、人事については、全く問題がなかったわけではありません。現在、私は医局に所属しているものの、医局人事から外れた環境で仕事をしています。これまで、医局員は人事権を教授に預けて、身分を保証してもらうという医局の側面について指摘してきました。今の私の立ち位置は、こうした医局の原則からは大きく外れています。
なぜ、こうした状況になっているのでしょうか。
発端は、前勤務先において、それまで許可されていた外勤が突然認められなくなったことです。外勤での収入は数百万円に及んでいましたから、それは勤務先病院からの実質的な減給措置だと私は捉えました。その年まで、論文の執筆数で3年続けて病院から表彰されていましたから、私は到底受け入れられませんでした。
こうした労使間のトラブルでまず頼るべきは、派遣元の医局です。
この件について医局と相談しました。医局は病院に働きかけてくれたものの、病院側の方針は覆ることはありませんでした。私はその病院で、場合によってはリタイアまで働き続けるかも、と考えていました。しかし、この件で、いくら業績を上げたとしても自分の環境を改善する可能性は皆無だと感じ、これ以上勤務を続けることはできないと思ってしまったのです。
医局人事は、基本的に年度単位で調整されます。医局と病院の交渉が不調に終わったのは5月の話でしたから、医局人事での異動を待つと、あと10か月も勤務を継続する必要がありました。ですが、私にはもうその気力は出ませんでした。
時期を同じくして、偶然にも、自宅からも通いやすい病院で、放射線治療医の募集が出ていました。私の個人的な判断で、就職活動をして内定を頂きました。その病院こそ、私が2024年現在勤務している病院です。
個人で勤務先を探して転職することは、医局に所属する者としては御法度です。私は教授に、当時の病院での仕事は続けられず、近隣の病院に自らの意思で転勤することを伝えに行きました。これ以上医局に留まることはできないと考えていました。ですから、教授に対して、私は医局を辞めざるを得ないと考えていることを伝えました。しかし、教授からは、これまでの教室への貢献があるので、医局を辞める必要はないと言っていただきました。私は驚きましたが、ありがたい話ですので、提案いただいた通り退局はしないことにしました。
こうした経緯で、私は医局に所属しながらも、医局人事から外れているという奇妙な立場にいます。
前職は結局その年の6月末で退職しました。突然の退職で、職場の医師やスタッフに多大な迷惑をかけましたし、その翌年には群馬大学から若い先生が私の代わりにその病院に派遣されてきました。私のような例外を認めることで、医局のガバナンスに亀裂が生じかねないと危惧しています。私の判断は正しかったのか、今でも考えてしまいます。とはいえ、当時はこの選択肢以外考えられませんでしたし、現在の環境になったことへの後悔はありません。
これらの経験から、私は医局について次のように考えています。
医局に所属することで得られるメリットは多いものの、医局人事に従うことの責任や制約も同時に伴います。そして、医局人事の枠組みの中で起きる問題は、個人だけでなく医局全体にも影響を与える可能性があります。私は今回の経験を通じて、医局という組織が持つ恩恵と、人事の難しさを改めて実感しました。
(1900字)
累計文字数
はじめに 800
医局と臨床、研究 1600
医局と教育 1200
医局と人事 2400
医局の構成員 800
医局に入る研修医の割合 700
医局のメリット 1800
医局のデメリット、人事 900
医局のデメリット、人間関係など 1300
医局じゃなければ 1500
医局と私 1900
合計 14900
自分の経験を書きました。
次回で、そろそろ医局の章を締めようと思います。
読んでいただきありがとうございました。
髙草木