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川上未映子『夏物語』をようやく読了しました。この読書は、号泣せざるを得ませんでした。2020年6月くらいから読み始めて、2021年3月に読み終わりました。

こんなに長い時間がかかったのには、いくつか理由がありますが、最も大きな理由は、この小説のテーマが重く、そして、一文一文のクオリティが高かったので、咀嚼の時間を確保して読む必要があったからです。

計り知れない推敲のあとを感じる名文

ざあーっと読める小説もあります。しかし、ゆっくり読むべき小説もあります。それらは読む人によって異なってくると思いますが、僕にとってこの『夏物語』はゆっくり読むべき小説でした。

それは、一文一文に込められた想いを咀嚼する必要があったというか、ゆっくりと咀嚼したいと僕自身が希望したからです。僕はこの小説を、よく噛んで、味わい、意味と意図を感じとり、飲み込んでいきたいと思いました。

それには、この小説が持つテーマの重さが関わっています。

女性について、女性しか子どもを産むことが出来ないことについて、命について、親と子について、セックスについて、男性と女性の関係性について、家族について。

この小説の主人公である夏目夏子という女性と、僕たちは同じ世界で暮らしています。けれども、夏目夏子の暮らす世界は、僕の妻や娘が暮らす世界で、とても苦しく、危険で、厳しい世界です。

けれども、僕たちは彼女たちと同じ世界で暮らしています。同じ世界で暮らしているのです。なのに、こんなにも世界が違うのは、一体なぜなのでしょうか。

この小説には、大きな問いがあります。とても大きく、重く、大切な問です。本文中に「賭け」という言葉で表現されている、子どもを産むという行為について、何故、子どもを産むのか、という問いに対して、その答えは、物語の中で出てきません。

思考停止せず、責任を転嫁せず、ただ向き合う

川上未映子さんは、読者にたくさんの「何故?」を投げかけます。その何故を、思考停止することは簡単です。しかし、答えを見つけ出すことは、とても難しいです。

けれども僕たちは日々を生き、仲間と暮らしています。たくさんの「何故?」への答えを避けたまま、僕らは日々を生きています。何故生きるのか?という問への答えを持たぬまま、生きています。

そして、「何故、産みたいのか?」という「何故?」への答えを明確にしないまま、男性の多くは子どもがほしいと思い、自分たちは何も出来ないにも関わらず、女性にその役割を負ってもらっています。

「何故?」を未回収にし、他のことに目を向けることで、僕ら人間は命をつないで来たのかもしれません。

ゴールにたどり着く意味を知らずに、走るマラソンランナーのようです。

ゴールにたどり着いた時、その意味を見いだせないまま、次のゴールに向かうことは、果たしてどういうことなのでしょうか。

意味を見出だせないまま、マラソンを走り、しかも、そのゴールへは女性だけしか行くことが出来ない。でも、そうやって、人は命をつないでいます。

それが、フェアではないにも関わらずに、男は女と喜びを共有しようと思っています。

とにかく、めっちゃおもしろかったし、すごく勉強になりました。

ここまで読んでくれてありがとうございます。また、読んでください。


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