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ダビド・ビジャのチャリティーオンラインセミナー運営から見えた課題と可能性 (プロボノ)

人生では時に自分でもよくわからないことが起こるもので、サッカー史に残るレジェンド、スペインの至宝にしてヴィッセル神戸の英雄。El Guaje(エル・グアヘ/アストゥリアス語で『子ども』の意)の異名を持つ『ダビド・ビジャ』のオンラインチャリティセミナーを、配信面でサポートする役割を務めました。本業U-NEXTとは関係なくて、ボランティアです。主催は SO GOOD GROUP 。

チャリティとはいえお金をいただいて実施するものです。深刻なトラブルが起こらないかどうか冷や冷やものでした。が、幸い大きな問題なく終えることができました。

今後オンラインセミナーは望む・望まないに関わらずスタンダードのひとつになっていくことでしょう。

無料配信はかなり事例が積み上がってきているように思えますが、有料のものはまだ限られています。

企画立案から実施、そして振り返りに至るまで一貫して関与し、有料オンラインセミナーに大きな可能性を感じることもできました。この感触を自分の中だけに留めておくことはもったいないと感じ、形式知としてnoteに残すため筆を執りました。

同じような取り組みが盛り上がっていく一助になれば幸いです。


🖊 全体のまとめ

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● やることを内々で決めたのは4月3日。PR Timesでの一般公開は4月7日。実施したのは4月11日。トータルで8日間の準備期間でした。

● 参加料金は最安で1,500円(税別)とし、申込み1件につき、運営費・諸経費として500円(税別)を差し引いた全額を「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」へ寄付しました。

● オンラインセミナー配信ツールはZoom、プレゼンテーションはGoogle Slidesを利用、ビジャを含め5名の運営体制全員がリモート環境で参加しました。

● 日本語・スペイン語の逐次通訳がつきました。ビジャとのやり取りは、すべて通訳が間に入っています。

NPSスコアは45.16 ptでした。単発のイベントかつチャリティのため単純比較はできませんが、日本は文化的にマイナスの数値に収まりやすい、業界別企業NPSランキングでは最高でも3.3 pt とも言われているため、健闘したのではないでしょうか。

● 『地理的な制約なく運営・参加できる。スピーカーが海外(スペイン)にいたまま開催できるし、首都圏からも地方都市からも隔てなく参加できる』、『質疑応答がサクサク進みたくさん対応してもらえる。』、『ビデオ通話で憧れのスターと直接対話できる』点は、オンラインセミナーならではの利点で特にポジティブだったように思えます。

● 逆にオフラインに劣る点としては、例えば握手やハグといった物理的接触はできない点があげられるでしょう。まだ一般的な取り組みにまで広がっていないことからオンラインセミナーで得られる体験価値を想像しにくいという点も指摘すべきと思います。


😍 オンラインセミナーに感じた利点と可能性

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実際に運営してみて、オンラインセミナー特有の利点は想像していたより多く感じられました。


リアル会場不要

セミナーをリアル会場で実施する際には、会場の手配、準備ほか、出席者対応などきめ細やかな各種ロジスティクスが求められます。

オンラインセミナーであれば、利用する配信プラットフォームを選ぶ、配信の仕組みを構築する、といった異なる種類の努力は必要になるものの、リアルイベントと比較して手間と時間がかかる準備作業の大半が不要で、相当に省エネで実施できる手応えがありました。

会場キャパを数十人程度から数千人のような超大規模まで容易に変更できるのも魅力です。思った以上に集まってしまったら、より大人数に対応しているオンラインセミナーツールに変更する、より上位のプランを契約する、だけですみます。

今回、実施決定から約1週間程度で開催までこぎつけられたのも、オンラインだった恩恵だと感じます。リアル会場で実施しようとしたら、会場選定すらおぼつかなかった可能性が高いような気がします。


世界中どこからでも、自宅など快適な拠点から、運営・出席が可能

ビジャはスペインのマドリード、他の運営メンバーは東京都内の各自の拠点から実施しました。

出席者は、特に居住地を確認しなかったので詳細は不明ですが、アンケートから「東京で開催されてたら参加できなかった場所」にお住まいの方も一定数いらっしゃったことがわかりました。

通常この手のイベントを実施する際にはどうしても大都市圏で開催することになりますから、地理的な制約はとても大きい。ローカル都市で生活されている方にとっては移動だけで大変な手間と出費です。

オンラインセミナーであれば、国境をも簡単に越えて集合できる。リアル会場に比べて準備も簡単だし、快適な環境でくつろぎながら参加できるし、終わった瞬間もう自宅。これらのメリットは、改めて無視できないな、と感じました。


Q&Aの進行がスムーズだった

Zoomウェビナープランで利用できるQ&A機能を利用して、出席者からテキストで質問を受け付け、運営がランダムに選択し、通訳がビジャへ伝えて回答をもらう、という進め方をしました。

この質問をテキストで受け付けておく、というワークフローが秀逸で、以下のような趣旨の肯定的なフィードバックが多数届きました。


・休憩時間に十分に時間をとれたので、満足いくまで考えて質問を投稿できた
・質問を文章で投稿したので、内容が整理されていてわかりやすかった。
・直接会ってのイベントでは質問タイムは短く、また限られた人(選ばれた人)しか質問できないことが多いのがいつも不満だった。注目を浴びるのが苦手で普段は質問できない人間でも、これなら気軽に質問できる。
・文字だけの質問コーナーがあることによって、主催者側が質問をチョイスすることにより質問被りがなく、さらにいろんな角度からの質疑応答を聞け、とても勉強になった。
・挙手&指名の時間や、マイクの受け渡し時間がなくスピーディーだった。
・リアル会場でありがちな質問内容が聞こえない(質問者がマイクを持たずに質問し、他の参加者に内容が伝わらない)、ということもなく、快適だった。


一体感を感じられる、という発見

これも個人的には意外だったのですが、「場所が離れていても、ひとつの部屋で話をしているような一体感が得られた」というフィードバックがいくつも届きました。

確かに、例えば数百人規模以上の大きなセミナー会場で離れた位置から発表を聞いているときに比べて、話者の顔がずっとはっきり見えるし、声もよく聴こえます。

ビジャに関しては自宅からの配信でしたから、彼の個人グッズ(過去に手中に収めたメダルの数々)が後ろに掲げられてた効果もあるかもしれません。登壇者のパーソナルな一面が見えるのですよね。

Q&Aを通じて双方向のやり取り時間をたくさん持つことができた効果もあるでしょう。またビジャが質問者の名前を呼んでくれた効果も大きかったと思います。リアルでももちろん起こり得ますが、オンラインだと確実にはっきり名前が聞こえるので、より嬉しく感じる可能性はありそうですね。

サッカー好きの友人の一人が参加してくれていたのですが、質問が読み上げられて、名前が呼ばれて、「テンションあがった!」と報告がきました。(質問を選んだのは私ではなく別の運営メンバーで、友人が参加したことは伏せていたのでえこひいきではありません…!念のため。)


😣 有料オンラインセミナーに感じた課題

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もちろんすべてが良いことばかりではありません。今回有料でオンラインセミナーを運営するにあたり感じた課題は以下のようなものがありました。


オンラインであることにより生じる課題

まずは絶対的に解決できないであろう課題から。

具体例としては、物理的な接触が必要となるもの、
・握手
・ハグ
・その場でもらうサイン
のようなイベントは、どう頑張っても実現できません。

SFの世界になれば物質転送的な何かで実現するかもしれませんが、私たちが生きている間に実現する可能性は低そうです。


既存のイベント管理プラットフォームがもつ課題群

既存のイベントプラットフォームは以下課題のいずれかが該当してしまい、告知・宣伝・申込・販売・案内まで一気通関させられず、高水準の顧客体験を作ることが困難でした。

・リアル会場イベントに焦点を絞っているためオンラインイベントへの接続が不自然。リアル会場での参加受け付け機能へ標準で誘導されてしまう、など。
・特定種のイベント(IT勉強会など)をターゲットにしているため、今回の目的に合致しない。
・無料セミナーのみが対象であり、参加費の決済を考慮していない。
・決済手段がクレジットまたはPayPalに限られ、決済ハードルが高い。キャリア決済、コンビニ/ATM支払い、といった手段が併用できることが望ましい。

もっとよく探せばちょうどよいサービスを見つけられる可能性もあるので、引き続き調査したいと思っています。


オンラインセミナーにお金を払う習慣がまだ根付いていない問題

今回の試みでは、販売期間中に大手メディアに記事化して取り上げていただけたこともありセミナー販売ページへのアクセス数は良好でした。一方で、一般的なイベントや以前DV7サッカーアカデミーで販売したオフラインイベントに比べ、コンバージョンレートはかなり少なめに収まりました。

この手の指標は様々な要因に左右されますから、たとえばタイトルの付け方やサムネイル画像、イベント内容説明など総合的に見てうまく魅力を訴求できていなかった可能性もあります。しかしながら、それら要因を越えた差がついたように感じています。

あくまで仮説ですが、やはり「一般的な人びとにとって、オンラインセミナーに課金をする習慣がない」ことが大きな要因なのではないかと考えられます。

実際、私自身もごく最近までオンラインセミナーにお金を払うという経験を持っていませんでしたからね。

このリモート時代にあって多くのイベントがオンライン化され、多くの人々がオンラインイベントへ参加して体験価値を理解できるようになると、有料セミナーであってもお金を払う習慣がついていくであろう、という気はしています。

これまでお伝えしてきたように、オンラインセミナーは十分に付加価値を感じられるイベントですからね。


🥅 おわりに

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ここまで読んでいただきありがとうございました。


実は、SO GOOD GROUPでは当初、運営をどこか信頼できるパートナー企業へ依頼する方向で進めていたようです。

しかし、こと現状において有料オンラインセミナーを実施するには

・組成されたチームメンバー全員が、安定したインターネット回線インフラと適切な機材を備えるホームオフィスを持っている(3密環境ではない環境でリモートワークできる)
・最新の映像配信、オンラインセミナー、アプリに対する包括的なノウハウと実践スキルを持つ
・利用導線、課金決済、バックアップ計画、テクニカルサポートまで一貫したユーザー体験シナリオの設計と導入、実行ができる
・当日イベントのファシリテート(事前から事後に至るまで、あらゆる角度の運営対応)ができる

など考慮すべき点が多岐にわたり、ひとつひとつは比較的容易に人材を見つけられるとしても、合わせ技一本で極めて特殊な業務になってしまっていることに気づいたそうです。

結果、安心して任せられる人や組織がない、少なくともすぐには見つからない、という結論に至り、自前(+少人数のボランティア)での実施を決意したとのこと。

この話を聞いて、今後、同様の有料オンラインセミナーを実施しようと考える誰かの参考になることを願って、noteを執筆しました。

お役に立てますように。


🏅 アディショナルタイム


主催者 SO GOOD GROUP の好意で、ダビド・ビジャのキーノートスピーチ、スライドと映像が公開されています。

ビジャ本人がこれまでの人生を振り返り、これからのプロジェクトを語る、聴き応えのある内容です。ビジネスにも活かせる要素盛りだくさんでした。

どんなイベントだったのか、気になった方はぜひご確認ください。



通訳のユータが素晴らしい仕事をしていることがわかると思います…笑

注:動画には後半のQ&Aセッションは収録されていません。質問者のプライバシーへの配慮と有料セミナーの付加価値を残すため、公開される予定は無いとのこと。

ビジャが手掛けるプロジェクト、DV7サッカーアカデミーのウェブサイトはこちら

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