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自転車民の年中行事について

その街での基本的な経済単位、それが自転車である。

我々の世界に於ける、戸籍、本籍、課税と納税、不動産、あるいはあらゆる信用の根拠が"自転車"である。生まれるとまず最初に与えられるのが最初の自転車の鍵であり、死ぬ際に譲られるものがその間際まで跨っていた最後の自転車の鍵である。

シュウゴはスタバの手前に停めていたハズのマイバイクが消失しているのに気付いて「あ!」と驚いたのだが、と同時に、遂にこの時が来たことを全身で喜んでいた。

市当局の係員に発見され、一定期間保管される間その自転車は隅々まで磨き上げられ、場合によっては部品交換され、そのボディのあちこちに刻まれた個人史の刻印を記録・分析された上で自宅に返却される。

ある種の神隠し的な、この年中行事は、市民たちのお互いの繋がりを保ち、世代や性別や所属先を超えて語り合える希少な共通の話題を保ち続けられる通過儀礼なのだ。

(インスタントフィクション Story 007)

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