珍しい本
アレックスはその希少本を手に入れられる日が来るとは、微塵も思っていなかった..。
純粋射精批判。
カントの名著に絡めた書名はもはや下品を通り越して、「ん?」..何か一瞬考え込ませるような謎かけ?を感じるのだ。
しかも噂によれば、この著者は物心ついてからの全ての射精体験の詳細を、その行為の記述のみに留めず、その際の心象光景までを克明に記録し続け、(ダーウィンの進化論と同年に)上梓するに漕ぎ着けたらしい。
その人並外れた、異様とも言える集中力と執念は、この本が単なる哲学書の体を借りたパロディ本ではないことを示しているのだと、キリスト教系男子校時代 同じ寄宿舎で同じ部屋だった親友スタンが熱弁を奮っていたことを思い返す..。
アレックスは矢も盾もたまらず、その古びて黴臭い古書を抱えてヘイズバレーの自宅に駆け戻ったのである。
(インスタントフィクション Story 009)
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