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とてもよく走る少女

スカートを履きサンダルを履いた少女が屈強なマラソンランナーを呼吸も穏やかにあっさり抜き去って行った時、単なる早足が走るを意味しないことを知った。だが長州藩奇兵隊歩兵部隊で慶応年間行われたオランダ式歩行訓練で誰も寄せ付けなかったと言う、曽祖父の祖父が編み出したと言われる古式走法の使い手としてそれに負ける訳にはいかない。

彼は右手と右足、左手と左足をそれぞれ同時に出して前に進む所謂ナンパの走りをまだ隠しながらも、ここぞのタイミングで押し返す気満々だった。..が、それもなぜ彼女がここまで走りに賭けているのか?の裏話を知るまでの覚悟だった。なぜなら......

ナバホ族に次ぐ人口規模と言われる彼らはかつて、新大陸に上陸したスペイン人たちに虐殺され、奴隷にされ、アパッチ族の身代わりに頭髪を剥がされてきた。それ以来、峡谷の内奥へと逃げ込んだ彼らは、独自の文化と社会を守り続けている。自らのことを「ララムリ」(”fleet of foot” people=俊足の民)と呼ぶタラウマラ族は、「大地の上を走り、大地とともに走れば、いつまでも走り続けられる」という言い伝えの通り、常に走って移動する。走ることは彼らにとって生活そのものであり、生き延びることであり、民族としてのアイデンティティなのだ。(WIRED JAPAN 記事 マス・ロコス(狂人ども)が集う、地の果てのトレイルランニングレースより )

(インスタントフィクション Story 022)

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