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iPhone 12の発表に感じた違和感:Appleのゴールデンサークルに足りないもの

Simon Sinek氏のゴールデンサークルをご存知の方は多いだろう。「WHYから始めよ!」の著者であるSinek氏がTED TALKでプレゼンした理論だ。ゴールデンサークルについては是非TED TALK本編を見て欲しい。

この話の重要なポイントは、人は「何を」のモノの部分ではなく、「なぜに」の理由を聞くと本当に心を動かされるという点だ。そしてゴールデンサークルの上記TED TALKでは、それを体現している存在としてAppleが例に出されている。

アップルならこんな風に伝えます「我々のすることはすべて 世界を変えるという信念で行っています 違う考え方に価値があると信じています 私たちが世界を変える手段は 美しくデザインされ 簡単に使えて 親しみやすい製品です こうして素晴らしいコンピュータができあがりました」

iPhone、iOS、iPad、Apple Watch……それぞれの登場は確かに世界を変えてきた。新製品が来る度に心は躍り、それらがもたらす新しいライフスタイルに皆が思いを馳せてきた。Appleだから、期待しているし、Appleだから欲しくなる。そんなイノベーションの象徴のような会社だと思う。

iPhone12の発表で感じた違和感

最初に断っておくと、iPhone12は超クールだと思うし、そのスペックは魅力的で、映画用に使えるほど美しくに撮影できるカメラにも惹かれている。そもそも自分はiPhoneユーザーだし、Macbook Proだって使ってるApple信者とまではいかずともAppleファンは名乗れると思う。ただ、iPhone12の発表を見終わった後、心の中に違和感が残った。

改めて見返し、違和感のポイントを探った。Appleがどういう信念で(Why)、どういう手段で(How)やってきたかは、今更語るまでもないというのは事実だと思う。だからそれが動画内で深く触れられなくても、まぁ良いのかもしれない。HomepodとSiriの両方でセキュリティについて念押し的に触れているのはHuaweiなどの中国スマートフォン勢への対抗心とも考えられる。プロダクトアウト的にスペック(What)を並べ立てるのはそういう意味もあるだろう。それでもここで感じる違和感は気になる程のものではない。

違和感がMAXになったのは、Apple Parkの上でVP of Environment, Policy, Social InitiativesであるLisa Jacksonが環境について語ったシーンからの流れだ。

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リサイクル資源、排出CO2ガスの0エミッション、iPhone生産システム全体における環境への影響を2030ゼロにする。うん。素晴らしい。Appleみたいに業界をリードしている会社がこういった意識を向けることはとても大切だ。パワーアダプターも確かに家に転がってるから要らないというのも納得できる。箱も小さくして、運搬にかかる資源も減らすのも良い試みだ。でもそれらすべての「善行」に疑いの目を向けさせる悪魔みたいな存在がこのシーンの直後に現れる。

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これだ。iPad第8世代やiPhone11から、電源アダプタと一緒に同梱されるようになったこのLighting-USB type Cケーブルだ。環境のことをぶち上げといてこいつが存在してくることによって色々モヤモヤが生まれる。ちなみにこのケーブルが紹介される時に、「More advanced, and higher power」と抽象的に紹介される。

Lightning-USB type Cケーブルの問題点

既存のユーザーにおいて、このケーブルに対応するアダプタを持っているのは、前述の通りiPad第8世代かiPhone11だ。それより前の世代のユーザーがこれに対応するアダプタを持っていることは少ないので、20億のアダプタが世界に転がってるというAppleのロジックは音を立てて崩れる。要は、かなり新しい世代のAppleデバイスを持っていないとまず恩恵に預かれない。これは2年以上今のスマートフォンを使い続けているメインストリームの買い替え層が多く該当する。

そしてLightningだ。iPad ProがUSB type Cを選択した時、私はAppleがついに独自規格を捨て去って世界との調和を臨む崇高な存在になったのかと喜び、次のiPhoneの誕生を心待ちにした。でもその後に出てくるiPadやiPad airは?iPhone 12 Proはどうか?Lightningだった。Appleは変われなかった。(ちなみにSEはLightningでも仕方ないだろうと赦しの気持ちはあった)

最近は、USB type Cがスタンダードである。これはもう揺るぎない事実だ。私の持っているゲームパッド、ミラーレス一眼、外付けHDD、Androidスマートフォン、全部USB type Cで繋がり充電できる。だからこれらを旅行なんかで持ち歩く時も、ケーブルは1本で良いし、なんなら予備にもう1本持ってたっていい。レガシーないくつかのデバイスのためにUSB micro Bを一本。そしてLightningを嫁のiPhoneと自分のiPhone用に一本ずつ。

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世界のゴミや資源の無駄遣いを減らしたいはずのAppleは次のiPhoneでも新たに資源を使ったアダプタやらを買わせようとしてくる。そうすると、環境のために減らしたアダプタもコストのための「言い訳」にしか聞こえない。そのお陰で小さくなったパッケージも輸送するために必要な資源の削減、というよりは輸送費削減の「言い訳」にしか聞こえない。なんかもう全てにおいてAppleが「環境」を盾に「言い訳」をしているように聞こえてならない。なぜなら、ことケーブル周りにおいて私の生活はiPhone12を買うことで「まったく良くならない」からだ。どこが「More advanced」で、「Higher power」なのかを教えて欲しい。

Appleのゴールデンサークルに足りないもの

Appleのゴールデンサークルに足りないもの。それはユーザー目線、つまりは徹底したUXではないだろうか。AppleにUXが足りないなんてのは恐れ多い発言と思うかもしれないが、でも事実UXは損なわれている。これを読んでいるあなたももしiPhoneがUSB type Cになったらどう思う?今のケーブルじゃ買う前の段階で少し悲しい気持ちになるし、そんなTweetが日本だけじゃなく世界中でつぶやかれてる(スペイン語でもポルトガル語でも嘆きを確認した)。Redditも盛り上がっている。Appleが本当に大切にしたいのは「環境問題」なのか、「ユーザー」なのか、「世界をより良くしたい」のではないのか?

Appleの実現したい世界はユーザーも含めたみんなにとっての理想郷なのか、改めて問いてみたい。その上で、改めて私たちユーザーを納得させる答えを・ビジョンを打ち出すイノベーションを見せ続けてほしい。

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