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僕たちはみんな“揺らぎ”でできている

 帰省中の実家でなぜか昔の「scholaスコラ 坂本龍一 音楽の学校」を見てたんですが、ご存知YMOが目指した「グルーブ感を一切排除した正確な音楽」がテーマとなっていました。音楽業界では1970年代のKRAFTWERKを筆頭にコンピューターを使った無機質なテクノが勃興しましたが、それまでの音楽にはグルーブ感、つまりある種の人間性から生まれる“揺らぎ”があることが当然だったわけです。彼らはその“揺らぎ”を排除することで新しい分野を開拓したのですが、この話を聞いて“揺らぎ”に関するいろんなことを思い出しました。

 僕は大学で医学を専攻していて、特に発達に関わる遺伝子について勉強をしていました。実は、遺伝子を扱う上で、この“揺らぎ”という言葉がたくさん出てくるんです。基本的に人間は遺伝子を複製して細胞分裂して成長していきますが、その過程でどんな遺伝子にも複製のミスはあって、それが突然変異を起こすのですが、この完璧じゃない複製こそが“揺らぎ”のある状態なんです。遺伝子にも“揺らぎ”があることで突然ある才能が芽生えたり、進化したりできるみたいで、今の人間があるのもこの“揺らぎ”のおかげなのです。

 全く違う話ですが、“揺らぎ”という言葉は昨年WWDで取材した大磯プリンスホテル内のスパ施設「サーマル スパ エス ウェーブ(THERMAL SPA S.WAVE)」でもキーワードとなっていました。ここでは時間ごとの空の色やプールの温度、香りなど、いたるところに微妙な変化、つまり“揺らぎ”をわざわざ用意していて、普段は気付かないような小さな“揺らぎ”を感じさせることで、ここでしか味わえないリゾート気分を演出しているのです。

話題の大磯・新リゾートスパ 五感をフル活用する“ゆらぎ”体験って何だ?

 つまり“揺らぎ”って何だというと、完璧じゃない、イレギュラーな瞬間ということです。すべての物事において“揺らぎ”は存在しているのです。電車の時刻表だって、スタバのコーヒーの味だって、必ず“揺らぎ”はありますよね。難しい話をすれば、宇宙がこれだけ大きくなったのも真空の“揺らぎ”のおかげだし、そもそも、すべての物質が存在するのも素粒子(物質の最小単位)が固有の振動を持って“揺らぎ”を行っているからです。

 結局何が言いたいのかわからなくなってきましたが、この世界は“揺らぎ”でできているのです。YMOもグルーブ感を排除した電子音に、これまでにはない可視化されたグルーブ感を生み出そうとしたといいます。むしろ疑うべきは、“揺らがない”こと。つまり変わらないこと、全く正確なことの方なのかもしれないなあと思った夏の夜でした。

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