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#060 あのクルマは果たしてバイクっぽいか

25、6年前、バーキンセブンというクルマに乗っていました。写真のがそれ。キャップを被ってサングラスをかけて、革ジャン着て、グローブをはめてひた走っているおじさんを時々見かけるでしょう? あの、ちょっとイキッたやつです。

オリジナルは英国のロータスが手掛けたもので、後にケーターハムが製造と販売の権利を取得。一般的にセブン、またはスーパーセブンと言えば、ロータスかケーターハムのバッジが付いているものを指します。前者が本家、後者が正統継承者(車)という立ち位置ですね。

一方、僕が所有していたバーキン製のそれは、ごく簡単に表現するとレプリカに相当。こうしたメーカーが他にもいくつかあり(ケーターハムもそのひとつと言えばひとつですが)、それらはひっくるめて「ニアセブン」と呼ばれたりします。「セブンっぽいセブン」、「セブンモドキ」って感じ。

もっとも、真正セブンだろうが、セブン的なものだろうが、走り出してしまえばどうでもいいこと。多少の引け目はアクセルひと踏み、ステアリングひと振りでぶっ飛んでいきます。なんせ車重が650kgほどしかないばかりか、エアコンもサイドウインドウも屋根もラジオもなーんもない。

風はビュービュー髪と頬を揺さぶり、アスファルトは眼下のすぐそこを流れ去り、助手席とは会話もままならないまま、ただただ走る。やせ我慢を強いられ、悲壮感にまみれ、でもだからこそちょっとヒロイックな気分に浸れるニアバイクな乗り物です。

だけれども。装備のプリミティブさは確かにバイクっぽいものの、ことコーナリングの挙動に関しては、イメージよりもずっと緩慢でした。かなりゆったりでした。ズバッと切り込んで、シュパッを曲がり終えるような俊敏さはなく、グワーンと大外から鼻先が向いていくイメージ。

あれ、なんか違うなぁ。嵐山高雄パークウェイに持ち込んで走らせた時、そう思いました。雑誌ではしばしば、そのハンドリングがいかに鋭いか。そしてコーナリングの限界がいかに高いかが興奮気味に書かれていたものですから、2輪の市販レーサーさながらの機動性がそこにあるもんだと勝手に妄想を膨らませていたのです。

冷静に考えれば、そりゃそうなんですよね。車体そのものは小さくとも、エンジンが載っかっている前端部分が長く、ドライバーはかなり後方に座らされているでしょう? しかもタイヤは四隅に離れて配置されていますから物理的にも感覚的にも曲がってる感を得にくいディメンションなわけです。

大げさに言えば、バスの後ろの方に乗っている時みたい。交差点を曲がる時、内輪差に気をつけながら運転席部分をちょっと反対車線にはみ出させながら向きを変えていく感覚、分かります? あの感じ。他に例えるならなんだろ? ハンマー投げかな。自分の身体から砲丸部分を遠くへ離し、遠心力で振り回す、あの感じ。セブンの挙動は実際、ああいう大振り感に近いものでした。

一般的なクルマと比較する圧倒的に軽く、圧倒的に重心が低いため、コーナリングの権化のように語られますが、実態としてはかなり穏やかな部類に属し、安定性もそれなりにある。そういうクルマでした。

バイク主体の生活ゆえ、クルマでもその気分を味わっていたいな。そう思って手に入れたセブンでしたが、想像していたようなソリッドさは望めず、「だったらバイクでええやんか」と思い至り、2年くらいで手放してしまいました。バイクとの親和性は、その見た目よりずっと薄い乗り物かもしれません。

今ならもう少し違ったスタンスで付き合っていたでしょうが、あの頃はまだまだ思考が直球型で堪え性が足りなかったようです。

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