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#034 おとなのいないいないばぁ

昨日、髪を切った。担当してもらった女性は初めて見かけるひとで、20代後半くらいの、やせ型というよりは少しぽっちゃりめ。グレーのロングヘアが似合っていた。

ひと通り切り終えて、洗面台で髪を流してもらっている時のことだ。イスを後方に倒して仰向けの姿勢になり、僕の左側に立った彼女が「お湯の熱さ、大丈夫ですか?」と聞く。まったくいつもの工程である。

その日、いつもとちょっと違ったのはここからだ。

洗髪の最中、しきりに顔になにか当たるではないか。プニッ……プニッ。(こ、これは)

間違いない。久しく忘れていた圧力だが間違いない。(おっぱいやん)

果たしてなぜそんなことがあり得るのか? 状況はこうだ。

僕の左側に立った彼女が自身の左腕を大きく回し、右側頭部越しに後頭部を支える。そう、ちょうどヘッドロックを決めるような感じ。その体勢で頭を軽く浮かし、右手に持ったシャワーヘッドで襟足のシャンプーを洗い流そうというわけだ。

ただし、彼女はそれほど背が高くなく、そしてそこそこ巨乳だ。普通の女性なら腕を回してもクリアランスができるに違いないが、彼女自身のおっぱいがそれを許さない。隙間を埋めるだけでなく、圧迫の役割も果たしているのである。ありがたいことに。

亀仙人的に言えば、パフパフ状態である。パフパフ。

しかし僕とて、50歳を迎えた身の上である。大した経験はなくともおっぱいくらいでは動じない。断じて動じない。

しかし昨日のそれは新鮮だった。洗髪時は顔にタオルを掛けられ、視界をほとんど失った状態だ。つまり、目を開けていても周りの様子を正確に知ることはできなかったわけだが、だからこそよかった。なんだかすごくよかった。

視界が遮られていても、彼女の身体が覆いかぶさるように迫ってくることは分かる。その時の陰影や体温によってイマジネーションが刺激され、いよいよと思うやいなや、プニッ。さらにプニッ。挙句そのプニッが少し揺れるからすごい。おぉぉぉ~……。

これはあれだ。「いないいない、ばぁ」と一緒だ。
「いないいな~い」
(くるぞ、くるぞ)
「ばぁ」
(きたぁぁぁ~)ってやつと同じ原理だ。オチが分かっていても楽しい。どれだけ繰り返されても楽しい。何度もせがみたくなるほど楽しい。

美容室はおとなのいないいないばぁ。50年ちょっと生きてきて得られた、新たな知見である。

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