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デューイ入門書として出色の一冊 ~上野正道『ジョン・デューイ』〜

大学時代、教育学系の試験で人名を問われて分からないものがあればとりあえず「デューイ」と書いておけ、と言われるくらいデューイは頻出だった。
大学院では、デューイの『学校と社会』や『民主主義と教育』の読書会を院生仲間らと共に行った。
大学教員として働き出してからも、教育の場面でも研究の場面でもデューイの論には繰り返し触れてきた。

が、つい先日岩波新書で出た上野正道『ジョン・デューイ ー民主主義と教育の哲学』を読んで、いかに自分が断片的にしかデューイの思想を理解していなかったか、いかに自分がデューイの生涯について知らなかったかを痛感することになった。

本書は、デューイの経歴をたどりながら、どんな歴史的背景のなかでデューイがどんな活動を行い、どんな論を唱えてきたかを描きだす

シカゴ大学からコロンビア大学に移る要因となったシカゴ大学での教員養成組織のゴタゴタ(元師範学校との統合)とか、1919年のデューイ来日に先立つ新渡戸稲造との交流や日本での講演に対する賛否とか、1940年代のアメリカでのハロルド・ラッグの社会科教科書排斥に対する抗議の論陣とか、知らないエピソードがたくさんあった(私が不勉強だったといえばそれまでなのだが)。

また、私が部分部分で触れてきた内容(実験学校、経験の再構成としての学習、リフレクション、アート、…)を大きな流れのなかで、同時代的状況も押さえて提示してもらえることで、理解が増した。

デューイの論の詳細な捉え方に関しては、もしかするとそれぞれの専門の人からすると異論があるのかもしれないが、大づかみでデューイの人と思想を理解するための入門書としては、現時点で出色の一冊だろう。

また、デューイの軌跡をたどることで、19世紀末から20世紀前半にかけての世界および日本の教育界の動きを、政治や経済の状況とともに学べる構成にもなっており、これから教育学を学ぶ(また、教員採用試験を受ける)学生にもオススメ。

【追記】
デューイの生涯に関して各種エピソードがギッシリといっても、「ほっこり系」のはなく、むしろデューイのオールマイティさが際立つ。もっとも、1939年にペンシルベニア・ホテルで開かれた「デューイの80歳の誕生日を祝福する祝賀会」に関して、「デューイ自身は家庭の事情で参加できなかったが、祝賀会には2000人が出席した」(p.233)とさらっと書かれているのには笑ってしまった。本人不在&2000人出席の誕生日会! 後に記念論文集も出版されているので、むしろ研究集会のようなものだろうが。

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