サピエンス全史(下)  4


 続きです。


 時系列が少し戻って、産業革命に入ります。エネルギーと畜産を中心に書かれていましたが、畜産のところが耐え難いものでした。いや、そうした畜産の上に成り立って、美味しいものを頂いていることは理解しているのですが、家畜の扱いご丁寧に擬人化して書いてくれて、がっかりしてしまいました。人工的に孵化させられたヒヨコがベルトコンベアーに乗せて流され、オスと不完全なメスはそこから降ろされてガス室やシュレッダーにかけられる、あるいはそのままゴミの中に投げ込まれるなんて言うこともあるのだそうです。こんな仕事、とてもじゃないけどできないと思いますが、やってしまうと人間はこなれてしまうのかもしれません。


 しかし、国家と市場経済の成熟によって世界は平和になっています。本書を読んでいると現在の平和のありがたみが良く分かります。ただ、2000年には5600万人が亡くなっていますが、戦争で31万人、暴力犯罪で52万人、自動車事故で126万人、81万5千人が自殺ですが、2002年は5700万人が亡くなり、戦争は17万2千人、暴力犯罪は56万9千人、自殺者は87万3千人とありました。2002年は3千人が亡くなったと言われる9・11の年ですが、それでも戦争と暴力犯罪による死者は減少し、自殺者は逆に増えているということです。この時点で他者に殺される人数と自分で死を選ぶ人数が逆転したと捉えることもできますが、他の年の数字もしっかりと比べてみないといけないでしょうね。著者を信用しないわけではありませんが、10年くらいを通してグラフか何かにして頂けると説得力が増したと思います。


 戦争で亡くなる人が減った要因は、戦争による代償が大きくなり、得られる利益が減少したとありました。当たり前と言えば当たり前ですが、極端な話ですが、「今後あらゆる平和賞を無用にするために、ノーベル平和賞は、原子爆弾を設計したロバート・オッペンハイマーとその同僚たちに贈られるべきだった。核兵器により、超大国間の戦争は集団自殺に等しいものになり、武力による世界征服をもくろむことは不可能になった。」とありました。そういう考え方もあるのかもしれませんが、日本人としてはとてもじゃないけど受け入れられない理論ですね。「集団自殺」と言っていますが、広島にしても長崎にしても、完全に虐殺で合って戦争犯罪でしょう。「設計された」ことよりも「設計されなかった」世の中がどうなったかを想像したいものです。


 もう少し続きます。あと1回で終わるかな。

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