服従


 ミッシェル・ウエルベック著、大塚桃訳「服従」を読みました。著者はフランスの小説家です。

 主人公のフランソワはフランスの大学教授で、19世紀末の作家、ジョリス・カルル・ユイスマンスの研究者です。このユイスマンスについて度々言及されるのですが、私自身が全くユイスマンスについて知らないので、本書においてどういう位置づけなのか理解できませんでした。彼は研究をしながらも、女学生らと関係を持つなどしながら生活していますが、そうした中で、イスラム教系の政党が選挙に勝ち、イスラム教徒のベン・アッベスが大統領となります。

 この選挙もいわくつきで、選挙日にテロ事件が起こり、選挙をやり直すなんて言う事態になっていました。やり直した選挙で、イスラム政党が勝つのですが、テロの因果関係も怪しく思えてしまいます。この辺りは上手く読み取り切れなかったので、再読の必要がありそうです。

 選挙の結果から、フランソワの周辺も大きく動きます。恋人のミリアムは、家族でイスラエルに引っ越してしまい、大学の学長も変わります。フランソワは、一度は大学を退職しますが、十分な年金を与えられて生活に困ることはありませんでした。この辺りから、物語は動きが少なくなるのですが、フランソワが徐々にイスラム教に傾いていく感じが、前半のテロや政権奪取の話よりも恐ろしく感じられました。

 フランソワは退職するも、その後、かつて訪れた修道院へ行ったり、かつての大学の学長に会ったりします。イスラム政権になり、一夫多妻が認められ、学長は何人かの妻をめとっていました。フランソワはそれがちょっとうらやましそうな感じです。

 そこから徐々に、ユイスマンスの研究を賞賛されたり、大学での好待遇を約束されたりして、フランソワはイスラム教への改宗を受け入れ、大学に復職することになります。最後に「僕は何も後悔しないだろう。」と書いてあったのが、逆に恐ろしくなる内容でした。イスラム教に詳しいわけではありませんが、本書にはイスラム教の目的は人間が神に服従することとありました。主人公が最後に見事に「服従」して終了ということですね。大学教授というインテリ層は好待遇を得ているわけですが、全ての人が幸福になったとは思えません。そう考えると、なんとも想像力と恐怖を掻き立てる作品だと思いました。

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