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大学生日記 #43 後ろ髪

「ま、まあいいじゃないですかこの話は、言葉の解釈は人それぞれなんですから。それよりさっきの指笛、あれどうしたんですか?」
広司が強引に話題を変えた。
「ああ、あれは以前に正面の家の馬鹿犬がいつもうるさいから、試しに指笛を鳴らしてみたのよ。そしたら理由は分からないけど、急に鳴き止んだのよね。だからそれ以来あんまりうるさい時は、指笛を鳴らすようにしてるの」
「へえ、何か漫画とか映画の話みたいですね」
「そう?まぁ指笛は、高校時代の部活のバスケで練習中によく鳴らしてたのよ。こう見えても一応、キャプテンだったからさ」
咲が少し自慢げな顔をしたが、不思議とそこに嫌味は感じなかった。
「あと聞きたいことあるって言ってましたけど?」
広司が一番気になっていたことを尋ねた。
「ああ、それはね・・・」
咲がキッチンに移動して洗い物をしている清美をチラリと見た。
「岡田君、今何時?」
「え?え~と、八時五十分です」
広司が腕時計を見ながら言った。
「そう。じゃあ、もう帰らなきゃいけないわね。私が駅まで送っていくから。駅までの道知らないでしょ?」
「はぁ」
「お母さん!岡田君もう帰るって。なんか明日早くから大事な授業があるみたい」
またもや会話が咲のペースになっていた。確かに月曜から大学の授業はあったが、だからと言ってそれが急ぐ理由にはならなかったし、狛江駅までの道順も新聞配達でかなり市内の道には詳しくなったので、迷うということもまず無かった。
「そう。もっとゆっくりしていけば良いのに」
そう清美が洗い物の手を止めて微笑みながら言うと、何故か広司は強く後ろ髪を引かれたのだった。

#小説 #馬鹿犬 #指笛 #道順 #後ろ髪

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