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優先席

品川駅からの帰りの電車での出来事だった。時刻は18時過ぎだったと思う。僕は何の気なしに総武線快速に乗り込んだ。車内も仕事帰りのサラリーマンなどでそこそこ混雑していて、僕は押し込まれるように、優先席の前に行き着いた。

早速僕は目の前の手摺に掴まり、スマホでニュースを読み始めた時だった。ふと目の前に視線を移すと優先席には、20代ぐらいのスーツ姿のサラリーマンの男性二人組が座っていて色々と話し込んでいる様子。偶然僕の隣には眼鏡を掛けた年配の男性がいたのだが、突然その年配の男性が優先席にすわっている若い男性の膝を軽く人差し指で叩き、視線を右に促したのだ。

驚いた優先席に座っていた男性と共に僕も視線を左に移すと、杖をついた男性が混雑した電車内に立っているようだった。どうやら目に障害がある方のようだった。そして、その年配の男性の意図を察した若い男性は直ぐに優先席を立ち、杖をついた男性の近くまで行き、事情を説明して優先席まで連れて来たのだった。そしてそのまま若い男性は優先席を離れた。

一方僕は、そんな一連の出来事の一部始終を見ながらスマホを見るふりをして無関心を装い、電車の揺れに合わせて振り返り、その人たちに背を向ける格好になった。それからそのまま電車は動き続け、後ろの席ではどうやら年配の男性が杖の男性に話しかけている声が聞こえてきていた。

そのまま電車は走り続け、僕は最寄り駅の1つ手前の駅で乗り換える為に降りようと動き出した時だった。その杖の男性も僕と同じ駅で降車するらしく動き出していたのだが、その杖の男性を助けるように、恐らく初対面であろう僕の隣にいて若い男性に人差し指で軽く合図をしていた年配の男性が周囲に声を出して、その杖の男性を安全に電車を降りるようエスコートしていた。そして再びその年配の男性は電車に戻っていった。

その年配の男性が電車に戻る瞬間、杖の男性が力強く感謝の握手をしていた光景がまだ鮮明に瞼に焼き付いている。僕も同じことを やろうと思えば出来たのに僕はやらなかった。いや、出来なかった。この差は大きい。そんな色んな事を考えていたせいか、乗る電車を間違えた帰りの出来事だった。

#優先席 #エスコート #無関心

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