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NewsPicksの年金コメントを斬る!

お久しぶりです。年金界の野次馬こと「公的年金保険のミカタ」です!

下は日経の記事で、就労と年金繰り下げを活用した老後の生活設計に関するものです。多少計算式が多く、一般の方には分かりづらいのではないかと感じましたが、内容は真っ当なものだと思います。

この記事が、オンライン経済メディアの「NewsPicks」(以下、NP)に取り上げられていました。私は、NPの有料会員ではないので、それほどよく見ているわけではありませんが、イメージとしては、NPの読者は「意識高い系」の方が多いという感じです。

ところが、この年金記事に対して、弁護士、企業経営者、経営コンサルタントといった肩書の読者がつけたコメントは、残念ながら大衆向けの某ニュースサイトでよく目にするものと、あまり違いはありませんでした。

今回は、これら「意識高い系」の方が日経の年金記事に対して寄せたコメントを取り上げ、その勘違いを正してみたいと思います。コメントはNPからそのまま引用していますが、太字による強調は私がつけたものです。

政府は年金減額の仕組みの緩和、廃止を提案していた

まずは、コメントの中で一番「いいね」がついていたものです。

65 歳になって、年金事務所に行ったら、収入が基準以上なので、年金は出ませんと言われました。
もっと収入を下げたら貰えますよと。
もう43年も欠かすことなく厚生年金を払っている。
不満だが、やむを得ないかと思ってたが、今度は、自分が厚生年金から外れたら、妻に国民年金の請求が来た。
どこまでも、真面目に働く人を馬鹿をしている。
65歳以上は、収入を三分の一の低賃金にしないと年金も、もらえない。
これが、年金受給年齢になった時に、企業が、給与を下げる理由になっている。給与を下げて、年金を満額貰った方が、収入は増えますよ、と。こうして、定年延長後の給与は、生活保護より少し上に下げられ、年金を満額貰って、ようやく定年前の6割くらい。
みな、そうして働き続けるしかないから、年金を繰り下げ受給すれば、お得というのは、私のように貰えないから、繰り下げするしかないので、そうすると言う人が多いのではないか。
さらに言えば、繰り下げで、受給額が増えるのは、基礎年金部分だけで、収入比例部分は、貰えなければ、丸損。その収入比例分の不支給額は、70歳までに15百万円を超える。不公平としか思えない。
そして基礎年金部分は、百万円程度だから、増えても年間数万円。
よさそうな謳い文句だが、実態は、ひどいもの。

お気持ちはよく分かります。年金が減額される仕組みは、厚生年金に加入している方、あるいは70歳以降も厚生年金の適用事業所で働いている方が対象で、そうでなければ、いくら資産があっても、個人事業主として高収入を得ても、年金は減額されません。

また、65歳以降の年金が減額されるような方は、高収入の会社役員のような人たちだから仕方ないだろうというのも間違っています。今はコロナ禍で収入は減少していますが、タクシーの運転手や警備員でも頑張って働いて、その結果、年金が減額されているというケースも現場で見てきました。

先般の年金改革の議論の中では、65歳以降の年金減額の仕組みについても基準の緩和、あるいは制度の廃止が政府の年金部会からは提案がされていました。それを、「金持ち優遇」という的外れなパフォーマンスで潰したのは、立憲民主党の山井議員です。

このような経緯を知らずに、現行の年金制度を政府の不作為と批判するのは的外れですね。

「貰うえるものはさっさと貰う」が招く悲劇

いきなり初っ端から長くなってしまいました。次のコメントに行ってみましょう。

年金の繰り下げ支給を選択してはいけません。
不利だと証明する試算はいろいろありますが、「貰えるものはさっさと貰う」という原理だと理解すればよい。
以前と異なり、最近は年金制度そのものが事後的に変更されるので、安定した制度としての試算に意味は無くなっている。

「貰えるものはさっさと貰う」というならば、どうぞ60歳から受給開始してくださいね。その結果、医療費や介護費がかかる80歳、90歳になって心細く、早く受け取ったことを後悔しながら生きるのは、つらいでしょうね。

また、「最近は年金制度そのものが事後的に変更される」というのは具体的にはどのようなことでしょう。2004年の抜本的改革後の年金制度のフレームワークには変更はありません。

一方、長期的には社会経済情勢の変化に合わせて年金制度も逐次見直していく必要はあります。それが、財政検証の役割ですね。まさか、年金制度が何の改革もなく「100年安心」で持続するものだなんて思っていませんよね。

早く亡くなってしまっても後悔するのは「あの世」

次は、今回の中では数少ない、まともなコメントです。

年金は長く生きちゃった場合の保険なので、この歳以上になれば働かなくて良いものと考えて特に制度について何も知らないと、実際その年齢になった時に問題になる可能性がある。
加えて、繰り下げもなにも、何歳まで生きるかわかっていない以上得も何もない。長生きして多くもらえたらまあラッキーでしたねってだけ。逆に言えば、それと同じくらいまあアンラッキーでしたねって人がいるだけ。

長生きしたら、受給開始を遅らせて増額した年金のありがたみを感じながら安心して老後をすごせます。逆に、受給開始を遅らせたのに、早く亡くなってしまったらアンラッキーですね。あの世で後悔してください。

弁護士ならば法の精神を理解しろ

次は、弁護士さんのコメントです。

死んでしまえば年金は受け取れません。
残された配偶者等が遺族年金をダブルで受給できる訳でもありません。
生きているうちにお金をもらいたい人は、繰り下げ受給には慎重になるべきでしょう。
繰り下げ受給は一種のギャンブルです。
100歳まで生きることができれば、大勝ちでしょうね(笑)

繰り上げ受給もギャンブルではないでしょうか。60歳から受け取り65歳で亡くなったら大勝ちというのでしょうかね(笑)

弁護士さんであれば、せめて「厚生年金保険法」という法律名と、その目的条文である第1条の意義をしっかりと理解して欲しいですね。

厚生年金保険法第1条

「繰り下げ」って実際どうするの?

年金の繰下げを検討する前に、先ずは自身の健康チェックをした方が良いです。繰下げでも元を取るためには、長生きする必要がありますから。

この方のように、65歳以降の年金を受け取る仕組みをよく理解していない人は多いですね。65歳時点で繰り下げるか否かの判断は不要です。年金が無くても生活できるなら、取り合えず受け取り開始を待ってみましょう。

待っている間に、大きな病気をしたりしたら、65歳に遡って受け取ることもできるし、健康で過ごせそうなら受給開始を遅らせて、増額した年金を受け取れば良いのです。

二股作戦

「繰り上げ」、「繰り下げ」は年金財政に対して中立

次は、またまた長文ですが、これにもよくある勘違いが見られます。

要は、働き続けると得をするってことですよね。
個人の生き方や経済状況から言うと、こういった制度は活用したほうがいいとは思います。
ただ、正直言って私達の納めている年金からの支出を増やしてまで、高齢者の雇用を促す必要ってあるのでしょうか。
私たちの世代からすると、すでに年金に期待できないと諦めている一方で、
産業構造転換が進まずに日本だけ世界から取り残されている中、まだ高齢者の現役が続くと思うと、正直ウンザリです。
高齢者の雇用継続インセンティブになるような年金ボーナス、稼ぐ力のない企業への延命としての資金支援、回復する見込みもない低所得層への無担保融資の拡大、ハコモノ産業にモルヒネを打つようなオリンピック開催と、
なんか抜本的な対策に目を背けて「とりあえずやり過ごそう」的な施策が多い気がします。
もし、労働力人口減の対策というならば、できれば高齢者の雇用延長ではなく、外国人流入を促進してもらいたい。
入管法の規制緩和や外資規制の緩和、グローバル化を促進する教育改革などをやってもらいたいのですが、、、
いろいろと問題もはらむかもしれませんが、そうでもしないと日本の社会は活性化しないで老いて死んでいくだけな気がします。

どうも、繰り下げは年金財政にとって支出増になると勘違いしているみたいです。これとは逆に、繰り下げを薦めるのは、支払いを先延ばしにしたいからだろう、という人もいます。

年金の受け取り開始時期の選択は、年金財政にとって中立となるよう設計されています。繰り下げを薦めるのは政府の陰謀だという論には気をつけましょう。

公的年金保険は国民が互いに支えあう共助のしくみ

次は、少し前向きなコメント。ホッとします。

70歳まで会社員よりも、起業して年齢に関係なく健康で意欲がある限り働く、という方が社会として良いと思いますねー。
70歳まで働かせられるのではなく、自分の自由意志で働く、と言う方が良いしね。
そういうことが出来るような社会全体の風潮や枠組みが出来ると良い。

と思ったら、次はまたまたひどい。しかも、財務省の係長さん?

もうとっくに崩壊していると思う。
僕は、年金はまったくないものとして考えて、
国をアテにせず
健康寿命を保つこと
好きなことで働く
老後資金は投資などで自分で準備する
そうやって生きるしかないと思ってます。
年金で、今まで支払った分の元を取るとか、繰り下げて少しでも得をするように、という観点は全くアテにできない。
もし、ほんとに老後、経済的に困窮したら生活保護一本で良いのでは?とさえ思います。

「国をアテにせず」とおっしゃいますが、公的年金保険の財源は、保険料7割、税金2割、積立金1割です。公的年金保険は、国民が連帯して生活のリスクに備える共助の仕組みであり、国が貧困に陥った人たちを救済する公助の仕組みである生活保護と混同してはいけません。

積み立て方式に対する幻想

お次は、経営コンサルタントの方のコメント。

あと10年後には3分の1が65歳以上になるので、現実的は年金システムは破綻しています。受給年齢の繰り下げは付け焼き刃で単なる問題の先送りです。個人的には厚生年金は税金だと思って払っており、将来はもらえないものだという位置づけにしています。
国に期待している政策も特になく、やってもらえなるなら、iDeCoやつみたてNISAの上限撤廃、DCの個人拠出部分の自由化をお願いしたいところです。

この方は、財政検証の結果やオプション試算で示されている制度改革の方向性について、ご存じなのでしょうか。そういう知識もなく、「年金システムは破綻」という言葉を使うのは、軽率ではないでしょうか。

NISA、確定拠出年金による備えもいいですが、老後の備えのすべてを市場運用に委ねるのは、その不確実性を考えると、あまりいいとは思えません。

「元気なうちに受け取る」の落とし穴

それでは、最後にこちらのコメントをご覧ください。

年金関係の記事は大抵「何歳でいくらもらえる」というものが多いですが、繰上げ・繰下げ受給について考えるときに含めた方が良いと思うのは「何歳でいくら使える」ではないでしょうか?
祖父母も親も、70代後半あたりから交友関係も縮小してきて、行動範囲も狭くなってきました。それに伴って必要な交際費・遊興費なども減ってきています。周りのお年寄りを見ていると、使い道があるうちに年金をもらい始めた方が良いのかなと思えます。

体が健康でアクティブに活動できるうちに、年金を受給し、使う方が良いという話もよく耳にします。「使い道があるうちに年金をもらい始めた方が良いのかな」といいますが、年を取るにつれて、医療や介護の支出は増えていきますよ。

健康であれば、いくらかでも働き、収入を得るようにした方が良いと思います。それでも、趣味や交遊に十分な時間を充てることができるのではないでしょうか。

スウェーデンの年金報告書(オレンジレポート)では、「平均寿命の延びのおおむね3分の2は、就労に充てる必要がある」と指摘されているそうです。

以上、NewsPicksの年金コメントについて、誤りや誤解を正してみました。私の拙い憶測ですが、NPの読者の皆さんは、成毛眞氏の「2040年の未来予測」の影響を受けているような気がしました。「2040」は、斜め読みですが、公的年金保険に関しては、部分的にいいポイントをつきながらも、多くの誤りや誤解があるように感じました。

ということで、次回の公的年金保険のミカタは「2040の年金誤解を斬る」です。どうぞ、お楽しみに!

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