見出し画像

全世代型社会保障構築会議ウォッチ Vol.1

皆さん、こんにちは!年金界の野次馬こと、公的年金保険のミカタです。しばらく投稿が途絶えていましたが、まったくサボっていたわけではありません。別の媒体に寄稿させていただいたりしていました。

こちらは、「LIFULL人生設計」のサイトでの年金記事です。「自分らしく生きるために」なんて、私に似つかわしくないオシャレなタイトルをつけていただきました。

また、こちらは朝日新聞が運営する言論サイトである論座に寄稿した記事です。自民党総裁選の時の年金論争について書いたものですが、今読んでも今後の年金改革の方向性について、多少なりともお役に立つのではないかと思います。基本有料サイトですが、私の記事は、9割がたは無料でも読めますので、ご興味があればご笑覧ください。

岸田政権で仕切り直す「全世代型社会保障構築会議」

で、久しぶりのnoteに投稿するのは、「全世代型社会保障構築会議」(以下、「構築会議」)の観察記事です。「全世代型社会保障ってなんか前からやってんじゃね?」とおっしゃる方は、安倍政権時代の「全世代型社会保障検討会議」(以下、「検討会議」)のことが頭にあるのでしょうか。

検討会議は、安倍首相に重用された経産省の官僚が主導したもので、財界よりの会議体であったようです。「予防で医療費を削減する」というポピュリズム医療政策を唱えたり、適用拡大の企業規模要件の完全撤廃を阻んだのもこの会議だったと私は見ています。

要は、企業の負担を増やさずにやりくりすることが、検討会議のミッションだったのです。

一方、岸田政権下で設置された構築会議は、政権の目玉である「新しい資本主義実現会議」の下で、社会保障政策に特化した議論をする場で、構成員は以下のメンバーとなっています。

画像4

11月9日に行われた第1回の構築会議では、各メンバーがどのような観点から全世代型社会保障に取り組むべきかという意見を述べていました。

これから、メンバーの発言の中で、目に留まった部分を紹介し、構築会議の議論の内容を皆さまにお伝えしていきたいと思います。

やはり年金制度改革の柱は適用拡大

まずは、構築会議の座長である清家篤氏(日本私立学校振興・共済事業団理事長/慶應義塾学事顧問)

勤労者皆保険とも言われますように、すなわち厚生年金の適用拡大といった、働く人たち全てに社会保障制度を支えてもらい、かつその恩恵を受けられるようにするということであります。

座長代理の増田寬也氏(東京大学公共政策大学院客員教授)

年金につきましては、被用者保険の適用拡大、つまり勤労者皆保険の実現を一丁目一番地とすべきだと思います。

そして、私のコラムで何度も紹介させていただいている権丈善一氏(慶應義塾大学商学部教授)

おかげさまで、年金における勤労者皆保険という言葉の意味と意義が広く理解されるようになってきました。勤労者みんなに厚生年金を適用することは、この国の年金で最も優先順位が高い政策ですので、ぜひとも実現してもらいたいと思っています。

水島郁子氏(大阪大学理事・副学長)

岸田総理が所信表明で述べられた、働き方に中立的な社会保障や税制、勤労者皆保険の実現の御方針に基本的に賛同いたします。人々が収入を得る、生活をするために雇用労働は中心的役割を果たしており、被用者保険の適用範囲の拡大は重要です。

4人の方から適用拡大の重要性についての発言が出たことは、心強いですね。ただ、「勤労者皆保険」という自民党が選挙公約として使ってきた言葉を「被用者保険の適用拡大」という風に言い換えているところは、ちょっと興味深く感じました。

「勤労者皆保険」は分かりやすい一方で、「日本はすでに『国民皆保険』なのに、なぜ『勤労者皆保険』が必要なのか。」と疑問を感じる方もいるのではないでしょうか。

そこで、上記4氏は、現在、非正規等の理由で、国民年金と国民健康保険に加入している勤労者が、より保障の手厚い被用者保険(厚生年金保険、健康保険)に加入することが重要であることを強調していたのではないかと思います。

また、香取照幸氏(上智大学総合人間科学部教授/(社)未来研究所臥龍代表理事)の以下の発言も興味深いところです。

社会保障の改革の問題は経済、財政、社会保障を一体で考えることが必要だと思っております。経済や財政が抱える様々な問題は言わば社会保障制度の与件ですので、例えば分配の歪みや格差の問題を解決していくことができないと、社会保障への負荷が非常に大きくなります。同時に社会保障を通じて様々な経済社会の問題を解決していくこともできるわけで、経済・財政・社会保障はそういう関係にあるということですので、これをぜひ一体で考えることが必要です。

公的年金の財政検証に対する典型的な批判として、「経済前提が甘すぎる」というものがありますが、「国破れて年金あり」ということはありません。

また、適用拡大のような、年金の制度改革を着実に実行することによって、基礎年金の給付水準の改善を通じた再分配機能の強化や、保険料負担ができない生産性の低い企業の新陳代謝を促すことに繋がるという面もあるのです。

医療保険制度の見直しについても

医療保険制度の見直しということに言及されたメンバーもいらっしゃいました。

まずは、増田寛也氏は適用拡大と併せて、医療保険制度の見直しにも言及されています。

今回のコロナ禍の教訓を踏まえて、地域医療構想やかかりつけ医の制度的な推進、そして、都道府県の役割発揮の後押しが必要であって、それには医療保険制度も見直すべきと考えます。

そして、もう一人、高久玲音氏(一橋大学経済学研究科准教授)は、より具体的に大企業を中心に運営している健康保険組合の問題点について言及しています。

特に日本はパッチワークのような、寄せ木細工のような医療保険制度ですので、保険料の非常に低い企業が温存されたまま、2022年に至っているということもございます。賃上げのこともありますので、整合性がどうかは分かりませんけれども、納得感を高めて、払う人の満足感を高めるような社会保障改革にしていかないと、持続可能にならないのではないかということを感じます。その点を強く申し上げたいと思います。よろしくお願いします。

健保組合の問題については、以前にも紹介しましたが、財務省の財政制度等審議会でも取り上げられていて、11月8日に改正された審議会でも、下の資料が再度提出されていました。

画像1

「著しく低い保険料率の健保組合の例」という表では、企業名は伏せられていますが、これを晒したものが下の表になります。

健保組合保険料率(財務省)

健保組合を束ねる健康保険組合連合会は、後期高齢者に対する支援金の負担が増してくることを「国民皆保険の危機」と煽っていますが、同じ労働者でありながら、保険料負担にこれほど大きな格差があることの方が危機的ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

構築会議でも、是非この点について議論をして欲しいと思います。

超党派で改革を

香取氏の発言で、もう1つ目に留まったところがありました。

もう一つは、この問題はどうしても国民生活に関わるので、改革をするたびに政治争点化します。それがないように、社会保障の問題は超党派で考えるという視点が必要だと思いますので、できればそういった大きな視点で議論が進められればよろしいかと思っております。

立憲民主党の代表選挙は、泉健太氏が勝利しましたが、選挙期間中に、候補者4名と有識者2名で行われていた討論番組で、有識者の1人室橋祐貴氏(日本若者協議会代表理事)が社会保障政策についての見解を候補者に尋ねたところ、候補者の4氏は次のような発言をしていました。

西村氏「モデル世帯を前提にした制度は見直しが必要」

小川氏「制度は昭和の人口ピラミッドに基づいて作られたもので、限界にきている。4割の人が国民年金を払えず、基礎年金の平均受給額は4万円台」

泉氏「厚生年金の加入対象者を増やす」

逢坂氏「少ない働き手でたくさんの人を支えなければならなくなってきているので、社会保障制度の抜本的な見直しが必要」

4氏の中で、唯一正論を説いていた泉氏が新代表に就任したのは良かったのではないでしょうか。香取氏の発言にあった通り、超党派で「勤労者皆保険(=厚生年金の適用拡大)」の実現に向けて改革を進めて欲しいと思います。

要注意人物は?

さて、ここまでは私が構築会議に期待している事柄についての発言を紹介してきましたが、一方で、「むむむ!」と感じる発言もありました。

エコノミストの熊谷亮丸氏(大和総研副理事長)の発言です。

我が国では急速な高齢化の進行に伴い、医療・介護の費用が増加し、これを支える現役世代の保険料の負担が非常に重くなっております。この結果、賃上げを行っても、保険料の増加で相殺されて、可処分所得が伸びず、消費に回りません。例えば2000年度から2019年度にかけて、実質雇用者報酬は10.4%増加しましたが、企業と雇用者の社会保険料を除くベースでは、2.4%増にとどまりました。

まず、最初の部分ですが、「賃上げを行っても、保険料の増加で相殺されて」って、おっしゃいますが、20年間で10.4%しか賃金が上がっていないことが問題ではないのでしょうか。こんな雀の涙程の賃上げだから、社会保険料の増加で相殺されてしまうのではないでしょうか。

社会保険料が増加してきたことは事実ですが、それは、少子高齢化が進む中、制度の持続可能性を高め、私たちが安心して暮らせる世の中を作るために必要なコストなのに、これを悪者であるかのような発言をするのは、いかがなものでしょう。

「現役世代の負担増を抑える」という言葉にも注意が必要です。現役世代すなわち労働者にとって社会保険料の負担は、自分が高齢期を迎えたときに安心して暮らせるためのものです。

負担増を避けたいのは、労働者よりも企業の側ではないでしょうか。企業にとっては、労働者の引退後の生活よりも、目先の保険料負担を減らすことが優先されるのです。このように、「現役世代」を隠れ蓑にして、負担増を逃れようとする企業と、その代弁者である熊谷氏には注意が必要ではないでしょうか。

ちなみに、社会保険料はこれからもどんどん上がっていくようなイメージがあるかもしれませんが、厚生年金保険料は、2017年に法律で定められた上限である18.3%まで引き上げられているので、法改正がなければ当面はさらに上がることはありません。

また、健康保険料も下のグラフの通り、協会けんぽについては、2012年から10%(全国平均)で変わっていません。協会けんぽと比べて、引き上げのスピードが遅い健保組合は、まだ上がる余地はあるかもしれませんね。特に、先に触れた通り、一部の健保組合の保険料率は著しく低く、これが妥当なのか疑問であり、常識的には引き上げられていくべきではないでしょうか。

健康保険料率推移2

真の全世代型社会保障とは

もう1つ熊谷氏からは以下のような発言がありました。

今後は「人生100年時代」ですから、負担能力のある高齢者は支え手に回っていただき、現役世代の負担増を抑える、そして、その財源の一部を使用して少子化対策を行うこうした全世代型社会保障改革を進めることこそが、岸田政権の公的な分配戦略の柱になるべきだと考えます。

この発言と比較して欲しいのが、下の文章です。こちらは、現在の社会保障制度改革の方向性を定めた「社会保障制度改革国民会議」の報告書(2013年)です。

全世代型の社会保障への転換は、世代間の財源の取り合いをするのではなく、それぞれ必要な財源を確保することによって達成を図っていく必要があ
る。
また、世代間の公平だけではなく、世代内の公平も重要であり、特に他の年代と比較して格差の大きい高齢者については、一律横並びに対応するのではなく、負担能力に応じて社会保障財源に貢献してもらうことが必要である。このような観点から、これまでの「年齢別」から「負担能力別」に負担の在り方を切り替え、社会保障・税番号制度も活用し、資産を含め負担能力に応じて負担する仕組みとしていくべきである。

上の二つは、負担能力のある高齢者に応能負担を求めているところは共通していますが、それで得た財源を少子化対策にという世代間の財源の移転(取り合い)を唱えているのが熊谷氏で、それぞれに必要な財源を確保すべしという国民会議報告書と異なっているところに注目です。

やはり、熊谷氏は現役世代をダシにして、企業の負担を抑えようということを言っているように感じます。これまでは、テレビで拝見していた熊谷氏は愛嬌のあるエコノミストというイメージでしたが、ちょっと見方が変わったと言ったら偏見でしょうか。

まあ、構築会議はまだ始まったばかり。今後の議論の行方に注目していきたいと思います。次回のレポートもお楽しみに!(って誰が?)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?