2019-11-20_-_コピー

年金を不安に感じる理由

一昨日の日経に下のような記事が出ていました。

「家計の金融行動に関する世論調査」というアンケートについての紹介記事です。

金融広報中央委員会(事務局・日銀)は18日、2019年の「家計の金融行動に関する世論調査」を公表した。老後の生活資金を「就業による収入」で稼ぐと答えた世帯は48.2%にのぼり、現在の調査方式となった07年以降で最高となった。年金だけに頼ることへの不安や、高齢者の働く意欲の向上が背景にあるようだ。

記事の内容について特に違和感はなかったのですが、「2000万円問題」の教訓として、「一次情報を確認すべし」ということを思い出し、元ネタのアンケート調査を見てみることにしました。

アンケートの内容で目に止まったのは、以下の部分です。質問の横に記載されている数字は回答率(%)です。

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2000万円問題では、年金だけで生活できないという不安や不満を感じた人がかなり多かったと思いますが、その印象と比較すると、「ゆとりはないが、日常生活費程度はまかなえる」という回答が半数近く(47.1%)あったことは意外でした。

以下の投稿でお伝えした通り、2000万円問題の元ネタとなった家計調査が示唆していることは、まさに、年金だけではゆとりのある生活は難しいかもしれないが、日常生活費はまかなえそうだ、ということで、それを半数近くの方が理解していたというアンケート結果には、いい意味で驚きました。

とは言っても、残りの半数近くの方は、「日常生活費程度もまかなうのが難しい」と感じている訳で、だからこそ、2000万円問題が大騒ぎになったのでしょう。

ところで、私が注目したのはそれに続く質問の部分です。年金だけではゆとりがない、あるいは、日常生活費もまかなえない、と考える理由を回答させています。

回答数の上位3つは以下の通りです。

① 物価上昇等により費用が増えていくとみているから
② 年金が支給される年齢が引き上げられるとみているから
③ 年金が支給される金額が切り下げられるとみているから

これを見ると、年金に対して多くの方が抱いている不安は、誤解によるものであることが分ります。以下①~③の選択肢が間違っている点について説明します。

① 物価上昇等により費用が増えていくとみているから
公的年金の財政検証によると、将来年金の受給を開始する時点での年金額は、物価上昇分を上回るか、ほぼ横ばい程度で購買力は維持されるものとなっています。この点は、下の投稿で指摘した通り、日経でも間違えて報道しているので、一般の方が誤解するのも無理はありません。

② 年金が支給される年齢が引き上げられるとみているから
年金の支給開始年齢の引き上げは、現在の年金制度の仕組みからして必要のないもので、今後行われることはありません。なぜなら、少子高齢化のための年金給付抑制策としては、マクロ経済スライドがあるからです。これについては、以下の投稿をご覧ください。

③ 年金が支給される金額が切り下げられるとみているから
年金の給付水準、即ち所得代替率は、今後マクロ経済スライドによる調整で現在61.7%のものが50%程度まで低下することになっています。しかし、所得代替率の低下は、年金額の切り下げと違います。①でも説明した通り、年金の実質額は増加あるいは横ばいとなる見通しが財政検証で示されています。この点については、以下の投稿をご覧ください。

以上、将来の年金に対する不安が誤解に基づくものだとお分かりいただけたでしょうか。私たちの老後を支える年金制度を正しく理解、活用すれば老後を十分に支えてくれるものなのです。皆さんの将来に対する不安が和らぎ、明るく前向きに今の生活が過ごせるようになるといいな、と思います。

最後に、そもそそも、このアンケートの選択肢の設定は適切なのでしょうか。年金不安が誤解に基づくものであるということをあぶり出すにはいいかもしれませんが、、、

私だったら、①~③の代わりに以下のような選択肢にします。

・マクロ経済スライドがフル適用になっていないから
・適用拡大の企業規模が完全に撤廃されないから
・年金が政争の具にされているから

金融広報中央委員会さま、ご検討をお願いします(笑)

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