子育て支援金で所得別の負担額が公表できないワケ…からのヤマノイ先生こきおろし

皆さん、こんにちわ!公的年金界のやじ馬こと、公的年金保険のミカタです。今回もまたまた、子ども・子育て支援金についてです。

現在、国会で法案が審議されているところですが、3月29日にこども家庭庁から、子ども・子育て支援金に関する試算として、以下のようなものが公表されました。

令和6年3月29日 こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度における 給付と拠出の試算について」

前々回の投稿で、私が試算したものと比べて、少し高めになっています。その主な理由は、支援金の総額が、前提としていた1兆円に、国保および後期高齢者における低所得者の負担軽減や公務員の共済組合の事業主負担に充てられる公費3000億円が追加され、支援金の総額が1兆3000億円となったためです。

それでも、被用者保険の保険料率に換算すると、労使合計で0.4%程度です。これは、試算表の右端に、現在の医療保険料に対する支援金の割合が、4~5%と示されていることとも整合しています。

ところが、この試算に対して、日本経済新聞は4月2日の社説では、次のような批判をしています。

健康保険組合や国民健康保険、後期高齢者医療制度など、国民が加入する医療保険別に加入者や被保険者の1人あたり負担額を示しただけで、所得水準によって負担額がどうなるのかが分かる試算はほとんど示されていない。
給付と負担を一体でみたときに子育て世帯にどんな受益がある制度であり、それが世帯所得によってどう変わるのか。支え手となる人たちの負担は単身や夫婦2人など世帯類型や所得別にどうなるのか。こんな基本的な情報をなぜ示さないのか不思議でならない。
これでは、何か都合の悪い情報を隠しているとの批判を受けてもおかしくない。

2024年4月2日 日本経済新聞社説

国会での法案審議においても、立憲民主党の山井議員がこの記事を紹介して、所得別の負担額を出すように加藤大臣に迫っていました。

これに対して、加藤大臣は、「現在の医療保険料に対する割合が4~5%と示されているので、そこから被保険者各々の負担額は推測できる」、「将来の賃金水準が見通せないため、所得別の負担額は示すことができない」と答弁しています。

結局、所得別の負担額を公表することについて、二人の話は平行線をたどるだけでしたが、一般の国民からみたら、公表できないとする国の姿勢を批判する山井議員の言い分に理があるように感じたのではないでしょうか。

しかし、こども家庭庁が公表した被保険者1人あたりの負担額自体が「一定の仮定をおいて行ったものであり、結果は相当程度の幅をもってみる必要がある。」と注釈がついており、これをさらに所得別というように粒度を細かくして示すことに慎重になっているようです。

その仮定の一つが、「労使折半」です。

子ども・子育て支援金は、医療保険の保険料と合わせて徴収されるので、被用者であれば、健康保険法によってその額が定められることになります。

以下、支援金を徴収するために健康保険法を改正する法律案の条文を見てみたいと思います。

まず、下の条文(156条)によって従来の健康保険料である「一般保険料率」に「子ども・子育て支援金率」を合算した率によって得られる額を「一般保険料等額」としています。

(被保険者の保険料額)
第百五十六条
被保険者に関する保険料額は、各月につき、次の各号に掲げる被保険者の区分に応じ、当該各号に定める額とする。
 介護保険法第九条第二号に規定する被保険者(以下「介護保険第二号被保険者」という。)である被保険者一般保険料等額(各被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額にそれぞれ一般保険料率(基本保険料率と特定保険料率とを合算した率をいう。)と子ども・子育て支援金率とを合算した率を乗じて得た額をいう。以下同じ。)と介護保険料額(各被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額にそれぞれ介護保険料率を乗じて得た額をいう。以下同じ。)との合算額
 介護保険第二号被保険者である被保険者以外の被保険者一般保険料等額

子ども・子育て支援金率は、160条の2で定められていて、これが労使合計で0.4%程になると見込まれています。

そして、161条が労使折半を定めているのですが、162条では健康保険組合の特例として、事業主の負担割合を折半より多くすることができるとされています。

(子ども・子育て支援金率)
第百六十条の二
子ども・子育て支援金率は、各年度において全ての保険者が納付すべき子ども・子育て支援納付金の総額を当該年度における全ての保険者が管掌する被保険者の総報酬額の総額の見込額で除した率を基礎として政令で定める率の範囲内において 、保険者が定める。

(保険料の負担及び納付義務)
第百六十一条 
被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の二分の一を負担する。ただし、任意継続被保険者は、その全額を負担する。

(健康保険組合の保険料の負担割合の特例)
第百六十二条 健康保険組合は、前条第一項の規定にかかわらず、規約で定めるところにより、事業主の負担すべき一般保険料等額又は介護保険料額の負担の割合を増加することができる。

したがって、健康保険組合の保険料は、労使折半とは限りません。下の表のように、事業主が3分の2以上負担している組合も少なくなく、1400近くある健康保険組合のうち、完全に労使折半なのは476組合だけです。

そうすると、支援金についても事業主が半分より多く負担することもできるので、個別の被保険者ごとに負担額を明示することができない、ということになるのです。

既に公表されている「被保険者1人あたりの平均支援金額」も、上記のような事業主負担が多い組合の場合は、金額が少なくなる可能性もあるのです。

労使折半と仮定して、所得別の支援金の額を出してもいいような気もしますが、それによって、労使折半でない組合があることに注目が集まると都合の悪い人たちもいるので、そこら辺に配慮しているのかもしれません。

まあ、医療保険と合わせて徴収されている介護保険料については、大半が労使折半となっているので、支援金もおそらく労使折半となるのではないでしょうか。

ところで、法案審議における山井議員(以下、ヤマノイ先生)の質疑は、いつものようにたちの悪いパフォーマンスでした。

支援金の事業主負担は、賃上げを抑制し、非正規雇用を増やすことになるので、少子化を加速するというのです。

賃上げを抑制するって、今年の賃上げ率は何パーセントでしたっけ?支援金は保険料率は労使合計で、0.4%程度、事業主負担であれば0.2%です。これで、賃上げを抑制するとは笑止千万です。

また、事業主が社会保険加入を逃れるために非正規雇用を増やすという話も、近視眼的で的外れです。年金改革では被用者保険の適用拡大が進められていて、さらには岸田首相が唱える勤労者皆保険が進められれば、事業主が非正規雇用を増やすインセンティブ自体がなくなるのです。

こども・子育て支援金のちっさいマイナス要因を大げさに語って、法案を潰そうというヤマノイ先生のパフォーマンスには要注意です。

そう、ヤマノイ先生には、前科があるのです。その一つは、2019年の年金制度改革で政府より提案された、在職老齢年金の見直しを、金持ち優遇という的外れな批判で潰したことです。

結局、それから5年経った今になって、働く高齢者が増える中、在職老齢年金の制度が、そのような人たちの負担・不満となっており、日本経済新聞でもその見直しを求める記事が出ています。

「保険料を払っているのに他の事情で満額支給されないのは異質。支給後に税制などで対応すべきだ」。23年10月下旬に厚労省が開いた審議会で、年金数理人の小野正昭氏はこう主張した。欧米などでは収入による給付の減額制度はない。
制度を廃止すれば給付が増える分、将来の給付水準が下がるとの試算もある。厚労省は20年の制度改正時に減額基準を上げる案を示したが、与党内で高所得者の優遇だと批判が高まり、据え置きを決めた経緯もある。

2024年4月2日日本経済新聞より

この記事では「与党内で高所得者の優遇だと批判が高まり」とありますが、これは間違いで、批判をしていたのはヤマノイ先生だったのです。

他にも、年金財政の持続性を高め、将来の給付水準を維持するための改革に対して「年金カット法案」と呼んで批判するなど、その徹底した的外れっぷりには感心さえしてしまいます。

今回の、子ども・子育て支援金についても、ヤマノイ先生が反対するということは、将来役に立つ制度であることは間違いありません。是非、法案が可決され、社会全体で子どもと子育てを支える機運が、国民全体に広がることを願っています。

ということで、後半は山井センセイのこきおろしとなってしましましたが、今回のお話はこれでおしまい。みなさん、ごきげんよう!

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