子育て支援金の試算について

みなさん、こんにちは。年金界の野次馬こと、公的年金保険のミカタです。今回は前回に引き続き、子育て支援金(以下、支援金)を取り上げたいと思います。

支援金についての試算が新聞やテレビで報じられています。

支援金は公的医療保険の徴収ルートを利用して徴収されますが、その金額の算定方法は以下のスライドに示されています。

令和6年1月19日 第174回社会保障審議会医療保険部会 資料2より

医療保険の制度ごとに、スライドの①~③の手順に従って、支援金で調達する1兆円を按分します。按分するために必要な各医療保険制度ごとの情報を、以下の表にまとめました。

データは、厚労省の「第24回医療経済実態調査(保険者調査)」の令和4年度速報値を用いました。

第24回医療経済実態調査(保険者調査)令和4年度速報値を基に筆者作成

それでは、スライドの手順に従って、後期高齢者、国民健康保険、被用者保険の順番に試算を行います。

後期高齢者の試算

後期高齢者は以下のように、医療保険料で按分した金額となります。

令和6年1月19日 第174回社会保障審議会医療保険部会 資料2より

各医療保険制度の保険料の合計は25.4兆円で、後期高齢者はそのうち1.5兆円なので、按分割合は6%(=1.5÷25.4)となります。

これを基に、被保険者1人あたりの金額を求めると、1か月あたり255円(=1兆円×6%÷19315千人÷12)となります。

後期高齢者は、基本的に年金生活者ですから、やむを得ない面もありますが、金額が少ない感じがしますね。政府も、今後、金融所得も考慮することを検討するとしています。

国民健康保険の試算

次に国民健康保険(国保)の試算です。

令和6年1月19日 第174回社会保障審議会医療保険部会 資料2より

後期高齢者による拠出を除いた分は、国保と被用者保険(協会けんぽ、健保組合、共済組合)の間で、加入者数によって按分されます。これは、※にある通り、介護納付金等における按分と同じです。

介護納付金等の「等」とは後期高齢者支援金の事なので、上の表に表示されている後期高齢者支援金の金額に応じて按分されます。後期高齢者支援金の総額は6.4兆円で、うち国保の分が1.7兆円なので、国保の按分割合は以下のようになります。

国保の按分割合=(100%-6%)×1.7÷6.4=25%

したがって、国保の被保険者1人あたりの金額は、773円(=1兆円×25%÷26770千人÷12)となります(計算式との差異は端数処理のため)。

被用者保険間の試算

最後に被用者保険間の按分です。

令和6年1月19日 第174回社会保障審議会医療保険部会 資料2より

被用者保険間の按分は、各制度の被保険者の報酬額に応じた報酬割となっています。これも※にあるとおり、介護納付金等、すなわち後期高齢者支援金における按分と同様なので、各制度ごとの按分割合は以下のようになります。

協会けんぽ=(100%-6%-25%)×2.1÷4.7=30%
健保組合=(100%-6%-25%)×2.0÷4.7=29%
共済組合=(100%-6%-25%)×0.7÷4.7=10%

したがって、各制度における被保険者1人あたりの金額は、以下のようになります。

協会けんぽ=1兆円×30%÷24812千人÷12=1022円
健保組合=1兆円×29%÷16549千人÷12=1463円
共済組合=1兆円×10%÷5740千人÷12=1428円

制度ごとの支援金の額のまとめ

以上、各医療保険制度ごとに試算したものをまとめると、以下の通りになります。被保険者1人あたりの金額は、試算の過程からも分かる通り、労使合計のものです。

冒頭の新聞記事で紹介されていた、日本総研の西沢氏の試算と比較して、共済組合以外は同じくらいの数字となっています。共済組合の数字に乖離が生じているのは、被保険者数の取り方かもしれません。

というのは、令和3年度は共済組合の被保険者数が477万人だったものが、私の試算に用いた令和4年度では574万人と100万人近く増えたのです。これは、令和4年10月から非常勤職員が協会けんぽから共済組合に移ったことが原因と思われ、西沢氏の試算は、令和3年度の被保険者数を使っていたのかもしれません。

この被保険者1人あたりの金額を保険料率にすると、0.3%程になりそうです。この春闘では、去年の3%台を超える賃上げを目指しているようですので、この程度の支援金は賃上げに水を差すものにはならないでしょう。

金額にしてみると、パートやアルバイトで標準報酬月額が8.8万円であれば月264円、最高等級の139万円であれば月4170円(いずれも労使合計)ということになります。

政府の試算~1人あたり500円

最後に、岸田首相が国会で答弁した「1人あたり500円」の根拠について確認してみましょう。

こちらのニュース番組の動画で、4分30秒くらいから片山さつき氏が説明しています(少し怪しいですが)。

支援金による調達額を1兆円として、これを全医療保険加入者(≒日本の人口)と、企業も負担するので被用者保険の被保険者数をダブルでカウントした数で除するという、少々トリッキーな計算をしているようです。

つまり、前の表のデータを用いて計算すると、
1兆円÷(全医療保険加入者+被用者保険被保険者数)
=1兆円÷(123392千人+47101千人)
=489円

ということで、1人あたり500円となるわけです。まあ、上の動画でも玉木氏が指摘しているように、これはあまり意味のない数字で、政府が「支援金の負担ガー」と批判されることを避けるために出したと見られても仕方ありません。

前回の投稿でも言いましたが、支援金を単なる負担と考えずに、対応する給付があることと、将来の経済成長につながる投資でもあるという、その意義を正しく国民に伝えることを政府には望みたいと思います。

支援金は目的外使用ではない

最後に、支援金は医療保険の目的外使用ではない、ということを前回の投稿で説明しましたが。これをあらためて強調したいと思います。

健康保険組合連合会が毎月発行している「健康保険」というリーフレットがありますが、その1月号に、以下のようなコラムがありました。

https://www.kenporen.com/include/monthly/kenko_hoken/pdf/202401_shiten.pdf

「こども未来政策と支援金制度」というタイトルのコラムの最後の文章には以下のように書かれています。

「医療保険者としての本来業務ではないが、社会保障制度の将来にわたる持続性の確保とこどもの健やかな成長に資するよう適切に協力していきたい」

健保連「健康保険1月号」

保険者の元締めである健保連が、本来業務ではない支援金の徴収に協力してくれると言っている訳ですから、もはや、当事者でないメディアや評論家が「目的外使用」といって騒ぐことがいかにナンセンスであるか、気づいてほしいところです。

ということで、今回はおしまい。それでは、みなさんごきげんよう!


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