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「年金繰り下げ受給の罠」という罠

まあ、予想通りというか、こういう記事は出ますよね。年金を繰り下げて増額すると、後期高齢者の医療費の窓口負担が1割から2割、あるいは3割に増えてしまうという話です。

医療費が単純に2倍になるわけではない

今回の法改正では、単身世帯で年収200万円、2人以上世帯で年収の合計が320万円以上だと窓口負担が2割になります。その影響を、記事では以下のような例を用いて説明しています。

仮に1割負担の人の医療費が年間10万円かかっていたとすると、2割になると20万円になる。年金生活において、この10万円の負担増は影響が大きい。

しかし、これだけでは今回の法改正によって影響を受ける高齢者に対する情報提供としては不十分で、これを見た高齢者が医療費の支払いが増えることを心配して受診を控え、健康を損なうことにならないか心配です。

ここではFPとして、配慮措置と高額療養費制度について、きちんと説明する必要があります。

配慮措置とは、法改正後3年間は、外来受診における窓口負担の増加額を1か月当たり3000円以内に抑えるというものです。したがって、これまで1割負担で毎月1万円払っている方が2割負担となっても、年間の増加額は3.6万円に抑えられることになります。

また、高額療養費制度は、1か月あたりの窓口負担額に上限を設けているものです。今回2割負担となる方の場合だと、外来受診で1人あたり1.8万円、外来と入院を世帯で合算して5.76万円が1か月あたりの上限となっています。

高額療養費制度のおかげで、入院などで医療費がかかる場合では、これまでと同じ窓口負担で済むのです。

単に、「窓口負担が2倍になって大変だ」と不安にさせるのではなく、制度改正についての丁寧な説明が必要ではないでしょうか。

繰り下げによる年金増額の効果は大きい

65歳受給開始の年金額が190万円の人(単身者)が、1年繰り下げると206万円になり、窓口負担は2割になってしまいます。しかし、冒頭の事例のような10万円の窓口負担増であれば、年金の増加額(16万円)の方が大きく、おつりが来ます。

さらに、可能ならば繰り下げる期間を2年、3年、、、、と延ばして年金額を増やせば、その分もっと安心感が高まると思うのですが、いかがでしょうか。

また、記事の中で下のような解説がされています。

 法改正については、われわれがコントロールできることはほとんどない。しかし実は、退職金や年金の受け取り方次第で将来の医療費負担は変わってくるので、自分でコントロールできる余地は残されているのだ。

「法改正についてはコントロールできない」のであれば、現行制度に基づいて繰り下げ受給の是非を論じることに意味があるのでしょうか。

筆者の論考における矛盾は、以下の文章にも表れています(太字による強調は私がつけたものです)。

 年金の繰り下げ受給をせずに65歳時の金額の公的年金収入だけなら、3割負担になることはないだろう(10年後、20年後は保証できないが)。

そう、10年後のことは保証できないのです。もし、現役世代と同様に、後期高齢者も所得に関わらず全員が3割負担になったらどうするのでしょう。「もし」と言いましたが、少子高齢化が進む中、公的医療保険制度のあるべき姿としては、2割負担の対象拡大から、さらには3割負担の対象拡大という方向であることに間違いはないでしょう。

ここら辺の話は、ここでも何度となく紹介させていただいた、権丈善一先生のコラムをご覧ください。

高齢期の生活設計はWPPで

これも、これまで何度となくお話した事ですが、老齢年金は高齢による稼得能力の低下と長生きリスクに備える保険です。年金の受給開始時期を窓口負担割合の高低によって決めようというのは、この原則とは関係のないことです。

そこで、受給開始時期を検討する際の重要な指針となるのは、WPP(Work longer, Private pensions, Public pensions)という考え方です。最近の週刊朝日でWPPの本家本元である谷内氏の記事が掲載されていたので、是非こちらを参考にして欲しいと思います。

現在の社会保険制度や税制は、これから将来に向かって変化していくことが考えられますが、どのような変化にも対応できる備えは、年金の受給開始をできるだけ遅らせて、増やしておくということではないでしょうか。

「年金繰り下げ受給の罠」という罠にはまらないように気を付けてください!


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