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ヒバリのこころ

実家の玄関を開け、両親への挨拶もそこそこに、ほぼ物置と化した僕の部屋へ足を踏み入れる。
本棚に雑然と並べてあったり、窓辺のラックに収めたり、床に積み重なって塔になっている大量のCDは素通りし、学習机の棚を探る。

スピッツの1st「スピッツ」と、マキシシングルとして再販した「夏の魔物」「魔女旅に出る」「惑星のかけら」。
中学生だった頃に同級生から借りていたままになっているCDだ。
返さなきゃと思っていて、それでも卒業してあっという間に連絡を取らなくなってしまって、僕の手元に残ってしまっていた。
実はこれまでに何度も思い出しては、SNSで彼の名を探したが全く見つからなかったのだ。
いつか会う事があったら連絡先を聞いて、今更でも返そう。そんな日が来ると良い。

ここしばらく、「夏の魔物」が散々脳内ループをしていたから、自分のiTunesに取り込みたかったのだ。
CDをバッグに詰めて、もう一度学習机をざっと見る。
もう何年も開けていなかった引き出しを開ける。
すると文庫本が何冊も出てきた。
おそらく大学生だった頃や卒業後に読み漁っていたものだ。
「こんなもの読んだっけ」「あ、これここにあったんだ。読みたくて見つからなくて買って読み返しちゃってたわ」「あー懐かしい思い出した」な本がぼろぼろ出てきた。
多分あの頃は、とにかくインプットする事に焦りを覚えていて、本を読んだり映画を観たりを繰り返していた。
勿論、そこから書けた曲だってあったし、モノの考え方や捉え方を構築する為の材料にもなってくれた。
そうそう、本を選ぶ時なんか、本屋の文庫コーナーをウロウロして、じっくり、グッとくるタイトルを探して、グッとくるものが見つかるまで何時間も粘ってたよな。
きっと無駄だった事はないけれど、覚えてないのが寂しいから、手元にあった事を忘れていた作品はもう一度読み返そう、そう思い文庫本たちもバッグに入れる。

もう一度、広くはないその部屋を見渡す。
本棚の一番下には、懐かしの「月刊歌謡曲」(通称「ゲッカヨ」)が何冊か並ぶ。千里さんやMOON CHILDが載った号ばかりだ。
「???」そういえばサザンの全曲集が無いな。はて、どこにしまったか。
いやいや、音楽系(楽譜系)の書籍はこの本棚の一番下にしか入れない。ゆずの全曲集だって、ロッキンオンジャパンだってここにあるではないか。
しばし考えて、そして思い出してハッとする。

そうだ、サザンの全曲集は、僕の手元にあるスピッツのCDの持ち主である彼に貸していたんだった。
部屋の隅で僕はひとり、少し笑えてしまった。

彼も、僕の事を思い出してくれたりする瞬間があるだろうか。
いつか会える、そんな日が来ると良い。

ちょっと気持ちが向いた時に、サポートしてもらえたら、ちょっと嬉しい。 でも本当は、すごく嬉しい。