「日本型ウェルビーイング」の思想的枠組みの視点について考える⑴
日本型ウェルビーイングの思想的枠組みの視点について考察し、「日本型ウェルビーイング」教育の構想と展望を明らかにしたい。
●「進歩」から「進化」へ
まず第一の視点は、「進歩」から「進化」への転換、「進歩」という効率性、利便性、均一性だけの機械論的世界観とは異なり、「多様の内発」が継続している「生命誌」的世界観への転換、という視点である。
ノーベル化学賞を受賞したプリゴジンが説いた、無秩序と混沌(カオス)から秩序ある構造が自発的に生じてくるという「散逸構造論」と南方熊楠の曼荼羅論は重なり合う、と中村桂子氏は指摘する。
中村桂子『人類はどこで間違えたか』において、「拡大・成長・進歩と支配・制服・操作からの脱却」を訴え、「共生」が生態系の姿であり、宮沢賢治の言う「皆」、つまり「『私たち生きもの』としての私」として森との会話から始め土を生かす農耕を始めることで、賢治の言う本当の「豊かさ」「幸い」につながる道を歩くことを求め、「新しい道は生きものとして古来の知恵を生かすものです」と述べている。
中村桂子・鶴見和子『40億年の私の「生命」』によれば、人間の手はプログラムされた「細胞死」によってできる。
細胞は5歩の指を作れ、ではなく、指の間に4つの谷間を作れと命令される。谷間にあたる部分にある細胞は、胚の中で自らの命を絶つことによって、指を作ってくれる。
つまり新たな命が誕生する前に死んでいく細胞があって、私たちの体はできていくわけである。
J.Cスマッツ著『ホーリズムと進化』の共訳者である石川光男氏は、死んだ細胞が外壁を覆って、新たに生まれる胃の細胞との幕間つなぎをしている、生と死の関係構造の理(ことわり)を感じる「理観」の重要性を説いた。
複雑系としての日本文明の特質を、
①心技体の統合性と一体性の「道」
②自然を活用する「活」
③補完機能を重視した「対」
④脳の機能からから見た「淡」
⑤内面化された関係性の「間」
と捉え、日本的な「包括的主体性」(繋がりの中で協調する)の重要性を説いた。
また、中村桂子編『和 なごむ・やわらぐ・あえる・のどまる』によれば、和の本質は、意見の違いや立場の違いを認めながら、新しいものを見出していく「和して同ぜず」の心である。
日本文化の基層を表す「和(あ)える」は「個々の姿を保ちながら調和の世界を築き上げる」言葉で、「和(なご)む」「和(軟)らぐ」「のどまる(のどかになる)」もキーワードである。
中村桂子氏によれば、多様な生き物は全て細胞でできているという「共通性」があり、その意味で「みんな違うが、基本は同じ」である。
●「対立」から「場」へ
第二の視点は、伊東俊太郎の「横への超越」「とも生きの絆」「進化の絆」「進化的倫理」「地球倫理」「場所論(コ―コロジー)」の視点である。
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