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●日本財団「包括的性教育の推進」提言の問題点


●「包括的性教育の推進に関する提言書」の6つの問題点

日本財団の「性と妊娠にまつわる有識者会議」が一昨年公表した「包括的性教育の推進に関する提言書」の問題点について考察したい。

第一の問題点は、性教育の「歯止め規定」の運用上のバージョンとされている学習指導要領の「歯止め措置」と「歯止め規定」の「撤廃・見直し」を、それらが学習指導要領に盛り込まれた経緯、とりわけ中教審の専門部会の年間の審議内容を十分に踏まえないで提言していることである。

第二の問題点は、朝日新聞が令和4年10月8日付けの記事で詳しく報道したアメリカの性教育をめぐる親と学校の深刻な対立の背景にある「包括的性教育」の問題点についての考察が欠落していることである⇓⇓

第三の問題点は、「学校における性教育の考え方、進め方」を改訂し、「道徳教育との峻別」「人権教育としての性教育」を中核とした「性教育の手引き」の必要性を強調していることである。

第四の問題点は、「包括的性教育の実施で、性的行動は慎重になる」と断じているが、これを否定する研究もあることを踏まえていないことである。

第五の問題点は、「リプロダクティブ・ライツ」をめぐる論争を踏まえていないことである。

第六の問題点は、国際的なスタンダードを根拠に日本の学習指導要領を批判し、5~8歳の段階で「性と生殖に関する健康」「家族の様々な形」「ジェンダーの理解」について教え、「ジェンダーとセックスの意味を明らかにし、それらがどのように異なるかを説明する」などと述べていることである。

●中教審専門部会の合意事項一4点の「歯止め規定」への留意を求めた「歯止め措置」

具体的に説明しよう。
まず第一の性教育の「歯止め規定」の運用上のバージョンとされている学習指導要領の「歯止め措置」とは、
⑴児童生徒の発達段階を考慮すること
⑵学校全体で共通理解を図ること
⑶保護者や地域の理解を得ること
⑷集団指導と個別指導の内容の区別を明確にすること

の点の「歯止め規定」に留意することを求めた措置である。

文科省によれば、この性教育の「歯止め規定」が学習指導要領に初めて記載されたのは、1998年の改定時であるが、中央教育審議会「健やかな体を育む教育の在り方に関する専門部会」が年間にわたって議論を積み重ねた結果、次のような意見の一致を見た。

学校における性教育として求められる内容は何かということについて共通理解を図って議論すべきである。

学校における性教育については、子供たちは社会的責任を十分にはとれない存在であり、性感染症を防ぐという観点からも、子供たちの性行為については適切でないという基本的スタンスに立って、指導内容を検討していくべきである。

性教育を行う場合に、人間関係についての理解やコミュニケーション能力を前提とすべきであり、その理解の上に性教育が行われるべきものであって、安易に具体的な避妊方法の指導などに走るべきではない。

心身の機能の発達に関する理解や性感性症等の予防の知識などの科学的知識を理解させること理性により行動を制御する力を養うことなどが重要である。

性教育においては、集団で一律に指導する内容と、個々の児童生徒の抱える問題に応じて個別に指導する内容の区別を明確にして実施すべきであり、学習指導要領に関する検討に当たっては、特に集団指導の内容について議論すべきである。

この点の「歯止め規定」に留意することを求めた「歯止め措置」は、年間回に及ぶ中教審の専門部会の審議を経て合意に至ったものであり、この歴史的経緯と論議を踏まえずに、とりわけ傍線部分について明確な反論根拠を明示しないで、「歯止め規定」「歯止め措置」の「撤廃・見直し」を提言しているのは、審議会軽視も甚だしい。

●道徳を全面否定する「包括的性教育」

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①歴史教育、②家庭教育、③道徳教育、④日本的Well-Being教育の観点から、研究の最新情報や、課…

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