「包括的性教育推進法」制定と埼玉県LGBT条例の問題点

 全国に広がりつつあるLGBT条例の推進団体が「包括的性教育推進法」を国会で成立させるための全国ネットワークの結成を目指し、安倍政権下で「過激な性教育・ジェンダーフリー教育の実態調査」を踏まえて、3年間の中教審論議を踏まえて学習指導要領に明記された「性教育の歯止め規定」を撤廃し、性道徳・性規範の解体を目指していることに注意喚起しておきたい。
 note拙稿で論じてきたように、道徳教育を全面的に否定する「包括的性教育」推進過激派団体をリードしている埼玉大学教授らがLGBT条例の下で暗躍し、埼玉県が全国最大の運動拠点として「性教育の歯止め規定」の撤廃に向けた先駆的役割を果たしつつあることは憂うべきことである。
 国連詣でを続けてきた左翼活動家たちが、全国61の地方自治体で「性の多様性尊重(LGBT)条例」や子どもの権利条例を制定し、次のような「包括的性教育推進法(案)」の制定に向けて動き出したことに注意する必要がある。

 第1章総則の第1条(目的)、第2条(基本理念)として、「ジェンダー平等」を掲げ、第4条(子ども・若者の包括的性教育を学ぶ権利の保障)には、乳幼児期から大学、社会教育を含め、第5条(国の責務)として、「法制上又は財政上の措置その他の措置」、第6条(地方公共団体の責務)にも同様の責務を明記している。
 さらに、第2章「包括的性教育推進計画」を3年ごとに策定し、第8条(年度別実施計画の策定)、第9条(包括的性教育推進状況の調査等)、第10条(国の包括的性教育推進委員会)、第11条(都道府県・地方公共団体の教育委員会)、第12条(学校等における包括的性教育の推進体制)。
 第3章「包括的性教育の基本方針」として、第13条(性教育政策を積極的に推進する措置)、第14条(ユネスコ編『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』を活かした性教育の体系化)、第15条(生涯教育としての包括的性教育)、第16条(教員養成課程及び保育士・幼稚園教諭養成課程における必修科目)、第17条(性教育政策への政策決定過程への参加)。
 第4章「包括的性教育推進の関連機関・団体等への支援」として、第18条(包括的性教育を推進する機関・団体の設立・運営)、第19条(非営利法人及び非営利民間団体への支援)を明記している。
 これはまさしくクビー著『グローバル性革命』が警告した「性道徳・性規範」の解体を目指す「グローバル性革命」の日本版を狙っていることは明々白々である。同案を策定した浅井春夫氏は、学習指導要領の「歯止め規定」の撤廃を課題とする同全国ネットの結成への「支援協力」を呼びかけている。
 ガブリエル・クビー著『グローバル性革命一自由の名によって自由を破壊する一』によれば、「包括的性教育」のガイドライン(幼稚園から12学年)を最初に出版したのは米国性情報・性教育評議会で、性道徳・性規範の撤廃によって性に対する認識を根本的に変革することを目指す「性革命」を「包括的性教育」は狙っている。「包括的性教育」の成立の歴史的経緯とイデオロギー的背景を踏まえることが重要である。
 1999年に「性の権利宣言」を採択した「性の健康世界学会」会長によれば、同宣言は1960年~1970年代の性革命に続く史上3番目の性革命であるが、その後「性の権利」概念をめぐる議論が紛糾し、国際家族計画連盟等が「包括的性教育」の改訂作業に加わり、2014年に同宣言が改訂され「包括的性教育への権利」が盛り込まれるに至ったのである。

●埼玉県LGBT条例の問題点
 この「包括的性教育」を推進する全国一の拠点(埼玉大学教授がその中核的役割を果たしている)である埼玉県で制定されたLGBT条例は、理念条例にとどまらず、具体的な事業実施のための「基本計画」を策定(第9条に明記)し、「基本計画」策定と今後の条例の運用を領導する「埼玉県性の多様性に関する施策推進会議」で、第4条「差別の禁止」に実効性を持たせるための「苦情処理窓口」が提案され、基本計画に盛り込まれた。
 かつて中川昭一議員の秘書をしていた諸井真英埼玉県議会議員の「LGBT反対で除名処分だなんて」(『WILL』6月号)によれば、LGBT条例案に対する県民のパブリックコメントでは9割近くが反対し、基本計画の策定についても81%が反対であったにもかかわらず、強行されたという。
 同条例の基本計画は「性の多様性」教育を令和7年度末までに埼玉県内全ての学校(小中特別支援学校、県立高校)で行う、と明記しており、外部講師の派遣、図書室におけるLGBTQコーナーの設置、学校における相談の実施、学校における性の多様性への配慮、「支援団体と連携できる環境」推進を行うことを明らかにしている。
 また、埼玉県ホームページ「埼玉県が実施する事務事業における性の多様性への合理的な配慮に関する指針」によれば、新規施設において、可能な限り男女共用トイレを設置し、「心の性」に従ってトイレを利用することを望む当事者もいることに留意し、施設管理者の判断で合理的配慮を行うという。
 諸井真英埼玉県議は、この点に関して「県LGBT条例では、国の理解増進法では記述がない女性スペースの運用・設置の在り方に踏み込んでいる。避難所において男女別スペースが瓦解することによる性暴力の増加、新規施設において女性用トイレの減少、『合理的配慮』による男性の女性トイレ・更衣室侵入などの問題が生じる」と批判している。
 特に、「心の性」(性自認)については、「性はグラデーション」であることを強調して、適切な指針を定めないままに「性教育の歯止め規定」を全面否定する外部の「包括的性教育」支援団体・講師に委ねることは、米英で大混乱を招いた二の舞を踏む結果となることは火を見るより明白である。
 埼玉県教育委員会は「たくさんの色 ふれ合おう」と題する中学・高校生版のリーフレットを作成し、「性はグラ―デ―ション」教育にお墨付きを与えているが、後から作られた性差を意味する「ジェンダー」は多様であるが、先天的な「性」の共通性という縦軸と後天的な「ジェンダー」の多様性という横軸の両面をバランスよく教える必要がある。
 科学的知見、科学的根拠に基づく「脳の性差」「性」と「ジェンダー」に関する性道徳・性規範に反しない真に「包括的」な性教育こそが求められているのである。道徳や性の共通性を否定し、「性の多様性」のみを強調する「新しい全体主義」が子供の「最善の利益」に反することは明らかである。
 
 

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