第4期教育振興基本計画と「こども大綱」とウェルビーイング⑴

 昨日8時から自民党本部で「日本ウェルビーイング計画推進特命委員会」が開催され、文部科学省総合政策局政策課長から「文部科学省のウェルビーイングに関する取り組み」について、こども家庭庁長官官房審議官から昨年12月22日に閣議決定された「こども大綱」と「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」概要について説明があり、私を含む有識者6名と国会議員20数名との質疑応答・討論が行われた。

●第4期教育振興基本計画の2本柱
 昨年6月16日に閣議決定された第4期教育振興基本計画(令和5年度から令和9年度)のコンセプトの2本柱は、⑴「持続可能な社会の創り手の育成」と⑵「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」であり、⑴の二本柱は、①将来の予測が困難な時代に、未来に向けて自らが社会の創り手となり、持続可能な社会を維持・発展させていく人材の育成、②主体性、リーダーシップ、創造力、課題設定・解決能力、論理的思考力、表現力、チームワークなどを備えた人材の育成、である。
 また、⑵の二本柱は次の通りである。
①多様な個人それぞれが幸せや生きがいを感じるとともに、地域や社会が幸せや豊かさを感じられるものとなるよう、教育を通じてウェルビーイングを向上。
②幸福感、学校や地域でのつながり、協働性、利他性、多様性への理解、社会貢献意識、自己肯定感、自己実現等を調和的・一体的に育む。

●日本発・日本社会に根差したウェルビーイングの向上
 「日本発・日本社会に根差したウェルビーイングの向上」については、「日本の社会・文化的背景を踏まえ、我が国においては、自己肯定感や自己実現などの獲得的な要素と、人とのつながりや利他性、社会貢献意識などの協調的な要素を調和的・一体的に育み、日本社会に根差した『調和と協調』に基づくウェルビーイングを教育を通じて向上させていくことが求められる」と書かれている。
 ちなみに、昨年のG7教育大臣会合「富山・金沢宣言」では、「調和と協調」に基づくウェルビーイングを日本発で国際発信した。この「日本発・日本社会に根差したウェルビーイングの向上」については、現政権が標榜する「新しい資本主義」との関係を検証する必要があり、経済と道徳・倫理の再融合の視点から「人の資本主義(Capitalism for Human Co-becoming)」に転換し、他者と共に人間的になっていく「変容」を重視し、変容する人間について測定し評価する「意識改革」重視の教育改革が時代の要請と言える。
 
●ウェルビーイング国際比較調査
 ウェルビーイングに関する国際比較調査によれば、「私の人生は、とても素晴らしい状態だ」「私の人生は理想に近いものである」「これまで私は望んだものは手に入れてきた」などの「獲得的幸福」要素を測定した「人生の満足度尺度」の得点は日本は13か国(米英中韓独豪加、スペイン、ニュージーランド、メキシコ、ブラジル、南アフリカ)中最低であるが、「自分だけでなく、身近な周りの人も楽しい気持ちでいると思う」「大切な人を幸せにしていると思う」「平凡だが安定した日々を過ごしている」などの「協調的幸福感尺度」の得点は概ね同じである。
 ウェルビーイング関係指標調査によれば、「自分には良いところがある」と肯定的に回答した児童生徒の割合は、概ね7割以上を維持している。また、「人の役に立つ人間になりたい」と思う児童生徒の割合は9割以上の高い推移で横ばい傾向にある。さらに、いじめの認知件数に占める、いじめの解消しているものの割合は、例年約8割で推移しているが、近年は減少傾向にある。
 ちなみに、昨年10月3日付読売新聞報道によれば、全国のいじめ件数は過去最多の68万件、不登校の小中学生は30万人に迫っており、教員採用倍率は東京2,7、千葉県・千葉市2,9など3倍を切り、教員不足や教員の質の低下が深刻化している。
 また、OECD(経済協力開発機構)の「子供のウェルビーイングダッシュボード」調査によれば、「困難に直面した時、たいてい解決策を見つけることができる」と答えた自己有用感のある子供、「自分の人生には明確な意義や目的がある」「全体として、人生に満足している」と答えた子供の割合は日本が44か国中、最下位であった。

●ウェルビーイングに関連する主観的指標
 第4期教育振興基本計画によれば、ウェルビーイングに関連する主観的指標は、以下の指標である
○自分には良いところがあると思う
○将来の夢や目標を持っている
〇授業の内容がよく分かる
〇勉強は好きと思う
〇普段の生活の中で、幸せな気持ちになる
〇友人関係に満足している
〇自分と違う意見について考えるのは楽しい
〇人が困っている時は進んで助けている
〇学級をよくするために互いの意見の良さを生かして解決方法を決める
〇地域や社会をよくするために何かしてみたいと思う
〇先生は自分のいいところを認めてくれる
〇困りごとや不安がある時に先生や学校にいる大人にいつでも相談できる

●教師、学校・地域・社会のウェルビーイング
 子供たちのウェルビーイングを高めるためには、教師をはじめとする学校全体のウェルビーイングが重要であり、家庭や地域、社会に広がっていき、その広がりが個人を支え、将来にわたって世代を超えて循環していくという姿の実現が求められる。
 同教育振興基本計画は「留意事項」として、以下の「Q&A」を掲載している。

Q 協調的幸福を強調すると、横並びの過度な同調主義につながるのではないか。また、自己肯定感の向上が軽視されないか。
A 協調的幸福については、「同調圧力」につながるような組織への帰属を前提とした閉じた協調ではなく、他者とのつながりや関わりの中で「共創」する基盤としての協調であるという考え方に基づくものです。また、本計画において、自己肯定感の向上は引き続き重視しており、ウェルビーイングの獲得的要素と協調的要素を調和的・一体的に育むことが大切です。
Q ウェルビーイングと学力はどのような関係に立つのか
A ウェルビーイングと学力は対立的の捉えるのではなく、個人のウェルビーイングを支える要素として、学力や学習環境、家庭環境、地域との繋がりなどがあり、それらの環境整備のための施策を講じていくという視点が重要です。また、社会情動的スキルやいわゆる非認知能力を育成する視点も重要です。
 
●こども大綱が目指す「こどもまんなか社会」
 一方、こども大綱が目指す「こどもまんなか社会」は、全ての子供・若者が、日本国憲法、こども基本法及び児童の権利条約の精神にのっとり、生涯にわたる人格形成の基礎を築き、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ、心身の状況、置かれている環境等にかかわらず、ひとしくその権利の擁護が図られ、身体的・精神的・社会的に将来にわたって幸せな状態(ウェルビーイング)で生活を送ることができる社会、と定義し、「こども施策に関する基本的な方針」として、以下の6本柱を掲げている。
⑴ こども・若者を権利の主体として認識し、その多様な人格・個性を尊重
 し、権利を保障し、こども・若者の今とこれからの最善の利益を図る。
⑵ こどもや若者、子育て当事者の視点を尊重し、その意見を聴き、対話し
 ながら、ともに進めていく。
⑶ こどもや若者、子育て当事者のライフステージに応じて切れ目なく対応
 し、十分に支援する。
⑷ 良好な成育環境を確保し、貧困と格差の解消を図り、全てのこども・若
 者が幸せな状態で成長できるようにする。
⑸ 若い世代の生活の基盤の安定を図るとともに、多様な価値観・考え方を
 大前提として若い世代の視点に立って結婚、子育てに関する希望の形成と
 実現を阻む隘路の打破に取り組む。
⑹ 施策の総合性を確保するとともに、関係省庁、地方公共団体、民間団体
 等との連携を重視する。
 

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